第67章 秘密の宴
その日の夜
結華と二人だけの早めの夕餉を頂き、湯浴みも済ませた私は、一人で天主の寝所で、眠れぬまま寝台に横になっていた。
本当は久しぶりに結華と一緒に奥御殿で休みたかったのだけれど、宴が開かれている大広間からは出来るだけ離れていたくて……
しんと静まり返った、主のいない天主は落ち着かなくて、時間も早いものだから余計に眠れそうもない。
寝台に横になって、ぺたんと頬を下に付けながら身体を丸めていると、きちんと畳まれて置かれた信長様の夜着が目に入った。
そっと手を伸ばして引き寄せると、両手で抱き締める。
(んっ…信長様の香り…落ち着く…)
もう何日もこれを着た姿を見ていない。
この夜着の下の、逞しく綺麗な身体にも…触れていない。
「っ…くっ…ふっ、信長さまっ…」
じわっと目頭が熱く潤んで、夜着に涙が落ちそうになって……慌てて上を向いて堪えた。
数日触れ合えないだけで、こんなに寂しくなるなんて思ってもみなかった。
おまけに、今宵は……と思うだけで胸がキリキリ痛む。
信長様に限って、羽目を外されるようなことはなさらないはず…と信じているけれど……不安で仕方がない。
今までだって宴のたびに不安は不安だったけど、これ程までではなかった。
(っ…ダメだ…眠れそうにない…っ…喉、渇いちゃったな…)
円卓の上の水差しから水を飲もうと起き上がるも、生憎と水差しは今日に限って空のままだった。
(女中さん達、今夜は宴の準備で忙しそうだったから…入れ忘れちゃったんだな。仕方がない……厨に行って貰って来よう)
今夜は厨にも大勢の人が出入りしているのだろう……
夜着のままでは恥ずかしいと思い、きちんと小袖に着替え直して行くことにした。
階下に降りて行くにつれ、愉しそうな笑い声や賑やかな音楽などが微かに聞こえてきて、心の臓がざわざわと騒ぎ出す。
厨に着くと、案の定、そこは人でごった返しており、料理を煮炊きする者や酒を温める者、など皆、慌ただしく立ち働いていた。
「まぁ、奥方様っ…如何なされました?」
顔見知りの女中さんが、入り口で立ち尽くしていた私を見つけて声を掛けてくれる。
「あ、あの、忙しいのにごめんなさいね…お水を頂きたくて…」
「これはっ、申し訳ございません…すぐご用意致します」
女中さんは慌てて奥へと走って行ってくれた。