第67章 秘密の宴
久しぶりに信長様と触れ合って熱くなっていた身体が、急速に冷えていき、モヤモヤとしたどす黒い気持ちが心の内に広がっていく。
ーゴホンッ
わざとらしい咳払いの音に、いつの間にか俯いていた顔を上げると、少し気まずそうな顔の信長様と目が合う。
「っ…あっ……」
何と言っていいのか分からなくなって口籠もる私に、信長様は、
「……年内の政務は今日でひと段落する。明日からは、一緒に過ごす時間も取れるゆえ、待っておれ。城下へ年末の市でも見に行くか?安土では見れなかったものも、あるやも知れんぞ?」
「…っ、はい…」
自分でも驚くほどに、気がない返事を返してしまった。
(信長様からの逢瀬のお誘い…嬉しいはずなのに、素直に受け取れないなんて……私、なんて嫌な女なんだろう…)
優しい言葉もどこか言い訳めいて聞こえてしまい、自分の疑り深さに嫌気がさす。
「………………」
「………………」
二人の間に気まずい沈黙が流れていく。
「……あっ…私、もう失礼しますね…お仕事、続けて下さい」
これ以上ここにいては、どんどん嫌なことばかり考えてしまって、信長様の前で醜態を晒してしまうかもしれない、と思い至った私は、いきなり立ち上がった。
「っ…朱里っ、待てっ…」
信長様の引き留める声が少し焦っているようにも聞こえたけれど、振り返らずにそのまま部屋を出た。
廊下を早足で歩きながら、ぐるぐると嫌な感情が胸の内で蠢いて、段々と気持ちが悪くなってくる。
(信長様は、どんな顔をなさっていたんだろう……)
罪悪感を感じているような気まずそうな顔?
悪びれるようなことはない、という堂々とした顔?
どっちもイヤだ。
どっちも見たくない。