第67章 秘密の宴
「っ…今宵の宴は、家臣達の労いが目的ゆえ、男どもだけの宴だ…貴様は出なくてよい」
「………そうなのですか…」
『男だけの宴』
そう言われて、何となく分かってしまった。
これは私が参加しちゃいけないやつなのだと………
織田家では、頻繁に宴が催される。
戦の戦勝祝い、大名達へのもてなし、家臣達の慶事、春や秋の収穫の祝い、季節の折々の労いのため、などなど……何かと理由を付けては、盛大な宴が催される。
盛大な宴を催すことは、家臣達の士気を高め、信長様の威光を示す為にも重要な意味がある。
宴で振る舞われる、各地の銘酒や珍しい豪華な料理は、織田家の有り余る財力と異国との親密な交流を示すことにも繋がり、信長様にとって宴は、単なる遊興という以上の意味があるのだ。
私自身も、信長様の妻として、そのほとんどの宴に参加するのが暗黙の了解のようになっているのだけれど………一つだけ、いつも私が参加を求められない宴があるのだった。
それは安土にいた時もそうだった。
『男だけの宴』 それが言葉どおり、男だけ、の訳がない。
実際に見たことがないので本当のところは分からないけれど……たぶん、遊女とか、踊り子とか、所謂そういう職業の女性達が多数呼ばれる宴なのだろう、と思う。
たまには羽目を外して遊びたい、息抜きもしたい、という下の者達の声に応えるのも城主としての責務だと分かっている。
男同士の付き合いで、より結束が固まるというのも分かる。
信長様は立場上為すべきことをなさっているだけで、それを自ら積極的に求めておられるとは思わないけれど、それでもやっぱり良い気はしない。
(他の女人が信長様に触れるのも、信長様が触れるのも…どっちもイヤ…)
そんな宴がある日は、信長様も何となく余所余所しくて…私も出来るだけ余計なことを考えないようにして、見ないようにと、宴の場から遠ざかるようにしていたのだ。
(本当は少し、怖いもの見たさの好奇心もあるんだけど……)