第66章 信長の秘密
『帯解きの儀』
子供用の着物についている付け紐を取り、初めて帯を締める着付けをするという、子供の成長を祝うための儀式であり、数え七つの歳に行うと決められている。
儀式の日には、晴れ着を着て神社・氏神に参拝して、その歳まで無事成長したことを感謝し、これからの将来の幸福と長寿を神様にお祈りするのだ。
戦乱の世では、大人になる前に早世する子供達も多く、子供がこの歳まで無事に大きくなるということは、非常に喜ばしいことなのだった。
「結華ももうそんな歳になるのか……早いものだな」
「ええ、近頃は急に背も伸びて、随分としっかりしてきました。子供の成長って早いですね……」
帯解きの儀が終われば大人の仲間入り、場合によっては早くも許婚が決められることもあるのだ。
(信長様は、結華を手放す気はなさそうだけど……)
まだまだ幼子だと思っていた我が子が少しずつ大人になっていくことに、嬉しさの中にも僅かに寂しさを感じる。
「…………どうした?」
「っ…結華もこれからどんどん大きくなって私達の手を離れていくんだなぁ、って思ったら少し寂しくて……」
何となく感傷的な気分になってしまって、知らず知らずのうちに下を向いていた私の顎を細くて長い指先が捉える。
指先で顎をくいっと持ち上げて、鼻先が触れ合う距離で覗き込まれる。
深紅の瞳が悪戯っぽく揺れる。
「……寂しがる貴様を放ってはおけん。早々に次の子作りに励まねばならんな」
「なっ、何でっ?? もうっ!どこからそういう話になるんですかっ! やっ、ちょっと、押し倒さないで下さいっ……」
あっと思う間もなくグイッと身体を押されて、廊下の床板の上に押し倒されていた。
「朱里、貴様に夜伽を命じる」
「っ…夜伽って…まだお昼ですよっ?」
「ふっ…俺が夜だと言ったら今は夜だ。貴様を可愛がるのに時間など関係ない」
不敵に笑いながらとんでもないことを言う信長様に、空いた口が塞がらない。
「そんなっ…んっ!んんっ…」
反論しようとした口を、すかさず塞がれて、ちゅうっと甘く吸われてしまい……もう何も考えられなくなった。
(んっ…もう…強引なんだから)
「っ…あの…今、ここで…?」
せめてもの抵抗に、押し付けられた床板の上で身を捩る。