第66章 信長の秘密
上半身裸の、その逞しく引き締まった身体は、美しい筋肉に覆われていて、動くたびに飛び散る汗が艶めかしく、目が離せない。
左の肩口の火傷の傷にはもう包帯は巻かれていないが、傷痕は残っているようだ。ただ、信長の動きに不自然さは感じられず、左肩を気にする素振りも見せない。
それでもやはり心配で、この激しい鍛錬で傷痕が開いてしまわないかと、内心はらはらして、自然と肩ばかりを凝視してしまっていた。
朱里が、じっと息を詰めて見守っているなか、ビュンッと鋭い一撃で、横一閃に刀を薙ぎ払った信長は、一瞬何事か思案するように動きを止め、それからカチンと刀を鞘に収めた。
その時になって漸く気が付いたかのように、額から流れる汗をぐいっと無造作に手で拭う。
そのさり気ない仕草でさえも男らしく、匂い立つような色香を放っていて、見ているだけでキュンっと胸の内が締め付けられた。
(お、終わったのかな……凄い迫力だった…)
緊張の糸が切れて、フラフラっとなりかけた私だったが……
「朱里、そこで何をしている?」
低く抑えた声で突然呼びかけられて、ビクッと身体が震えた。
慌てて顔を上げると、手拭いで汗を拭きながら怪訝そうにこちらを見ていた信長様と目が合った。
「あ、あのぅ…私…迷ってて…」
「は?」
ますます怪訝そうな顔になる信長様を見て、私もますます慌ててしまう。
「や、あのっ…違います…あっ、いえ、迷ってるのは本当だけど…えっと…」
「くくっ…落ち着け」
いつの間にか私の傍まで来ていた信長様は、ぽんっと私の頭の上に手を置いて、宥めるように撫でてくれた。
その優しい手つきに、ふわりと心が暖かくなる。
「うっ……すみません。あのっ、信長様は何故、こんなところで鍛錬を?城には道場もあるのに……」
「……道場だと、何かと面倒だからな。秀吉のやつ、口を開けば無理はするな、傷に障る、などと煩いこと、この上ない。
流石にこのような庭の外れならば、彼奴にも見つからんだろう?」
どうだ、と言わんばかりの勝ち誇った顔で言われて、こちらも何とも言い返せない。
(道理で、あんなに探したのに見つからなかったはずだ……)
「で、でも…お怪我は本当に大丈夫なのですか?」
目のやり場に困る逞しい双肌脱ぎの身体をチラチラと見ながら、さり気なく火傷の傷痕の具合を窺う。