第66章 信長の秘密
「………っ…あれ……?んん??」
考えごとをしながら廊下を歩いていた私は、角を曲がったところで見た襖の絵に、あれっと思う。
(ん?この襖絵、さっき見たような気がするけど……気のせい?あれ?……私…迷ってる??)
さっと血の気が引いたような感覚に陥って、益々焦る。
(ど、どうしよう!誰か……って誰も歩いてないっ…)
キョロキョロと周りを見回してみても人影はなく、どうやらこの辺りは人通りが少ない場所のようだ。
廊下は庭に面しているようなので、考えごとをしながら、いつの間にか本丸御殿の庭の外れの方まで来てしまっていたようだ。
(うぅ…また迷っちゃうなんて、情けない。
ええっと……お庭って…どうなってたっけ……?)
焦りながら頭の中に城内の見取り図を浮かべていた、その時………
ービュンッ! シュッ!
どこからか、空気を切り裂く、風のような音が聞こえてくる。
(……何の音だろう?この先の方から聞こえてくるみたいだけど…)
聞き慣れない音を不審に思いながらも、庭に面した廊下を進み、恐る恐る、角を曲がってみると、そこには………
庭で一人、刀を振るう、信長の姿があった。
冬の寒さの中、袴を身に付け、上半身は双肌脱ぎの姿である。
一心不乱に剣技を繰り出す信長の身体は汗ばみ、この寒さの中でも熱く湯気が上がっている。
随分と長く稽古をしているのであろうか、額にも汗が浮き立ち、動くたびにキラキラと輝きながら飛び散っているのだが、信長は気にする様子もなく、刀を振るい続ける。
迷いのない、鋭い太刀筋は、目の前に敵が見えているかのように、一寸の乱れもなく撃ち込まれる。
その度に、あの空気を切り裂く風のような音が立ち、その勢いはこちらの方まで届きそうだった。
流れるように繰り出される剣技は一つの型のようでもあり、まるで隙が感じられない。
戦場さながらの緊張感に、私は息をするのを忘れてしまうほどで、ただ吸い寄せられるように、信長様の動きに魅入っていた。
(信長様……こんなところでお一人で鍛錬を……?)
信長が刀を振るうところを見るのは初めてではないが、戦場での姿を彷彿とさせるような鋭さに圧倒されてしまい、とても声を掛けられる雰囲気ではない。