第11章 束の間の息抜き
呆れたような声に、目の前を見ると
向かい合わせの膳の前で、箸を持ち上げたまま、呆れた顔で苦笑いを浮かべる信長様の姿があった。
「そのような蕩けた顔で食いおって……
ここが天主でよかったわ、他の奴らには見せられん」
「え〜っ、そんなぁ。だって好きなんですもん」
(そんなに変な顔してたかなぁ、う〜ん、恥ずかしい…)
そう、今は夕餉時。
今日は天主で信長様と2人で夕餉を頂いていた。
いつもは広間で皆で食べるのだけれど、時折、今日のように2人だけで向かい合って食べる。
互いに1日の出来事を話しながら、美味しいご飯を頂く、幸せな時間だった。
今日の献立の中にあった『きのこのあんかけ』
きのこが大好きな私に、信長様は自分の分も食べろと言って、自ら箸で食べさせてくださったのだった。
「くくっ、そんなに好きなら、きのこ採りにでも行くか?」
「えっ、きのこ採りですか??」
「近々皆で鷹狩りに行く予定がある。貴様も一緒に来るがいい。
狩り場の近くには、山菜などが取れるところもあると聞く」
「一緒に行ってもいいんですかっ?
嬉しいっ!」
(信長様と出かけられるっ。皆も一緒なんて楽しみだな)
久しぶりの外出に心躍らせながら、自然と頬を緩ませていた私の顔に、唐突に信長様の顔が近づく。
そのままチュッと口の端に口付けられて、さっと頬が赤くなる。
「っ、の、信長様??」
「…米粒がついておった。
くくっ、貴様は子供か?」
「ち、違いますっ!
もう、ちゃんと口で言って下さい!」
「ふっ、だからちゃんと口で教えてやったであろう?
子供でないと言うなら、この後それを証明せよ。
……どういう意味か、分かっているであろう、な?」
閨の方へチラリと視線をやりながら妖しく微笑む信長様を見て、色々と邪な想像をしてしまい、ますます頬が赤くなった。