第65章 逢瀬〜つま先まで愛して
引き留める間もなく足早に天主を出て行ってしまった信長の後ろ姿を、朱里は呆然と見つめるしかなかった。
(また信長様に心配かけちゃったな…城下を歩いたぐらいで、こんなの…情けない、日頃の鍛錬が足りてないんだ)
茶屋で休憩をした時には足の痛みに気付いていたが、久しぶりの信長様との逢瀬をもっと楽しみたくて、無理をしてしまった。
(これぐらいの傷、我慢できると思ったのに……かえって信長様に迷惑かけちゃってるし…はぁ…不甲斐ないな)
しんっと静まり返った天主に一人でいると、どんどん自己嫌悪に陥ってしまい、傷のズキズキした痛みが心の中にまで広がっていくようだった。
やがて……戻って来た信長様の手には、軟膏の容器と包帯があった。
「信長様、ありがとうございます。後は自分で……」
「ならん、足を出せ…塗ってやる」
「ええっ…で、でも…っ…ひゃあっ!」
戸惑う間もなく、胡座を掻いたその上に足を乗せられる。
長い指先に軟膏をたっぷり掬い取り、そっと傷口に乗せていく。
指の内側に、信長様の指先が微かに触れるたびに、擽ったいような、面映い快感が襲う。
「んっ…っ…」
「………痛いか?」
信長様の指の動きが気持ち良くて、思わず甘ったるい声を上げてしまった私に気付かないのか、信長様はただ心配そうに顔を覗き込んでくる。
(んっ…ダメ…これは、治療、なんだからっ……)
朱里が、騒ぐ胸の内を抑えている間にも、軟膏を塗り終えた信長は器用に包帯を巻いていく。
「……こんなになるまで、何故言わなかった?」
「っ……ごめんなさい」
「責めている訳ではない…我慢して歩いて…痛かっただろう?
隠し事はなしだ、お互いに…そう約束しただろう?」
「っ…ごめんなさい…でもっ…信長様と、少しでも長く逢瀬を楽しみたかった…途中で帰りたくなかったの…」
「っ……貴様という奴は…(どこまで愛らしいのだ)」
しゅんっと項垂れる姿がいじらしくて、守ってやりたくなる。
湧き上がる欲求に突き動かされるように、信長は朱里の足先に唇を寄せる。
包帯の上に軽く唇を触れさせてから、それ以外の部分、小指の先や足の甲に、ちゅっちゅっとわざと音を立てて、熱い唇を押し当てていく。