第63章 虹彩の熱情
「やっ…待って、近すぎますって…もぅ…信長様ったら…」
「貴様が焦らすからだ」
「うっ…焦らしてなんか…ちょっ、そんな近くで見ないで…」
(これはもう、やらないと許してもらえないやつだ…)
間近で見る信長様の眼鏡姿の破壊力は半端なくて、眼鏡の柄に向かって、そっと伸ばした私の手は緊張で震えてしまっていた。
耳横の柄を持って、すっと優しく外す。
眼鏡を外した、いつもの信長様のお顔
見慣れてるはずなのに、今は何故かとても新鮮で……これまたドキドキが止まらない。
「ん……」
「っ…えっ……」
口づけを強請るように、ほんの少し、前に突き出された信長様の唇が艶々として悩ましい。
目も、薄く閉じておられるようで…普段見ることのない甘えた姿に、私の心の臓はもう、爆発寸前だった。
(か、可愛いっ…おねだり?私、もしかしておねだりされてる?
こんな信長様、見たことないよっ…)
「…………朱里、早く」
「は、はいっ!」
口づけを急かす声音も、甘くて色気たっぷりで……
ーちゅっ
軽く音を立てて唇を重ねる。
すぐに離れる、戯れのような軽い口づけ。
(うん、可愛く口づけられたな)
はしたなく騒ぐ鼓動に気付かれないように、自然にさりげなくできたな、と満足感に浸っていると…………
「…………貴様、まさかそれで終わりか?」
「…………へ?」
呆れたような声音に、驚いて顔を上げると、信長様は不機嫌そうに眉間に皺を刻み、顔を顰めている。
(っ…あれ?さっきまでの可愛らしい信長様は…どこへ?)
「馬鹿者、そんなのは口づけではない。
口づけとは……………こうするのだ」
「んっ?ん"ん"っ!? ん"ん"ん"っーー!」
ーチュプッ ブッチュウッ!
いきなり、熱い唇がぶちゅっと重なったかと思うと、唇ごと食われるのかと思うほど強く吸い付かれる。
角度を変えながら激しく吸われ、隙間なくぴったりと重ねられた唇からは息をすることも出来ず、私は鼻から荒い息を洩らすしかなかった。
(っ…苦しっ…息、続かないっ…)
息苦しさに身を捩っても、信長様の腕が腰に回されていて身動きすら封じられている。
少ない酸素のせいで頭が回らず、身体から力が抜けて、くったりしだした私を見ていた信長様は、少しだけ唇をずらしてくれる。
「っ…はぁ…はぁ…」