第63章 虹彩の熱情
口の端に僅かに開いた隙間から息を継いで、飛びかけた意識を浮上させる。
けれど、そのまま唇を離してくれるのかと思いきや、信長様の口づけは止まらない。
激しく貪られた先程の口づけとは違い、今度はねっとりと舌を絡めた濃厚な行為が始まる。
ーチュッ クチュクチュ チュプッ
「んっ、はっ…あっんっ…ふっ、ぁふっ…」
熱い舌が歯列を割って口内深くに挿し込まれると、尖った舌先が上顎の内側をツンツンと刺激する。
(擽ったい…でも、頭の奥がジンっと痺れる感じで……気持ちイイ)
信長様の長い舌は、ぐいっと奥まで侵入して、私の舌の付け根の辺りまで舐めてくる。
「っ…ん"んーっ!やっ、んっ…」
舌の形を確かめるように、奥から手前までを舌先でつーっと辿ったあと、舌を絡め合わせる。
クチュクチュという淫らな水音が響き、唇の端からは、口内から溢れたどちらのものとも分からない唾液が垂れ落ちる。
(んっ…昼間からこんな口づけ…我慢できなくなるっ…)
濃厚な口づけで身体の奥の熱が上がっていくのが分かる。
口づけの、その先を期待した身体が、じくじくと疼いて堪らなかった。
ーチュッ
このまま永遠に続くかと思われるほどの濃密な時間は、突如、仕上げのように施された軽い口づけによって終わりを迎える。
「っ…はぁ…信長さま…?」
散々に乱されて涙目になって愛しい人を見つめると、信長様は満足そうに微笑を浮かべながら、口の端を濡らす唾液を指で拭っておられた。
「ふっ…蕩けた顔だな。
もっと欲しくなったか?
だが……今はお預けだ、夜まで待て」
「っ………」
ニヤッと笑った信長様は、文机の上に置いてあった眼鏡を取り、優雅な手つきで掛けると、何事もなかったかのように、また書簡に目を通し始めた。
(んっ…もぅ…ひどいっ…)
恨めしげにジトっと見つめる朱里の視線に気付かぬフリをして平静を装いながらも、信長もまた、己の身の内に、燃え上がった熱情を感じずにはいられなかったのだった。