第63章 虹彩の熱情
「……もっと近くで見ていいぞ」
「ええっ…っあっ…!」
ぐいっと腕を引かれたかと思うと、あっという間に腕の中に囚われていた。
「っ………」
信長様の端正な顔が間近に迫る。
眼鏡の奥の深紅の瞳がキラリと妖しく光る。
それは、獲物を追い詰める獣の如き野性味溢れる美しさがあって…私は目を逸らすことができなかった。
「朱里…俺を見よ」
「っ…んっ…信長、さ、ま…」
「ふっ…どうだ、間近に見た感想は?」
「んっ…やっ、顔、近いですっ…恥ずかしいっ…」
思わず顔を背ける朱里の顎を、信長は、指先で捕らえて、当然のように自分の方へと向けさせる。
互いに目線を熱く絡ませながら、自然と求め合うように顔が近づいて………
ーコツンッ
「「つっ……」」(痛っ)
互いの唇が重なる寸前で、眼鏡の縁が朱里の顔にコツンと当たって口づけの邪魔をする。
その瞬間、お互いに驚いたように目を見張るのが、何だか可笑しくて………二人して苦笑いを溢す。
「ふっ…まさか、これに邪魔をされるとはな……」
ぶつかって少しずれた眼鏡を指先で、つっと直しながら、くつくつと笑う。
その仕草もまた、艶めかしくて目が離せない。
(ダメだ…眼鏡に触れる指先の動きまで色っぽいなんて……心の臓に悪いよっ)
煩く騒ぐ胸の鼓動を抑えるのに必死な私にはお構いなしに、信長様は更に破壊力のある口撃を仕掛けてくる。
「……朱里、貴様がこれを外せ」
腰に腕を回して朱里の身体を引き寄せたまま、眼鏡の縁をちょんちょんと叩きながら命じる。
「………えっ?」
「眼鏡が邪魔して貴様に口づけられん。だから……貴様が外して…貴様から俺に口づけよ」
口の端を上げてニヤリと不敵な笑みを見せる信長様の、眼鏡の奥の瞳は笑ってない。
有無を言わせぬ甘い命令に、私の胸は最大限に煩く騒ぎ出す。
(どうしよう、信長様の眼鏡姿、ずっと見ていたいほど素敵なんだけど……外す瞬間も、堪らなく色っぽくて……それを、私が……するの??こんなに近くで?)
「………早くしろ」
「っ…やっ、だって…もうちょっと…見ていたい、です」
「くっ…っ…俺は…早く口づけたいっ」
「っ…あっ…」
熱の籠もった掠れた声で囁かれ、信長様の顔が更に間近に迫ってきて、私を追い詰める。