第63章 虹彩の熱情
「ん?あぁ…これは、細かな文字を見たりする時に使うと良いそうだ。小さな文字が見やすくなるらしい。
なかには、ただ見ための装飾の為だけに掛ける眼鏡もあるらしいがな……これはそうではないみたいだ」
片手で、眼鏡の柄の部分を持って、慣れた手付きで外す信長様。
(うっ…格好いい…もうっ、何しても似合うな…)
「……手に取って見てみるがいい」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」
差し出された眼鏡を、そっと両手で受け取って、まじまじと観察する。
耳に掛ける部分は、真鍮?だろうか…金属で出来ているようだが、細かな彫刻も施されていて、繊細なつくりになっている。
二つの目の部分は、透明度の高い水晶のようだった。
天主に射す陽の光にかざしてみると、キラキラとした美しい光を放つ。
(っ…綺麗っ…)
「あのっ…掛けてみてもいいですか?」
「あぁ、構わんが…貴様は本当に好奇心旺盛だな」
「うふふ…だって、気になるんですもの」
そおっと目元まで持っていき、軽く顔の前にかざしてみる。
(うわぁっ!な、何、これ?? 字とか、すごく良く見えるっ!)
「わぁ、これ、凄いです、信長様っ!」
「くくっ…童か、貴様は……」
「だって…すごく良く見えるんですっ…どういう仕組みなんでしょう?小さい文字が大きく見えますね!
あっ、それで、これを掛けて書簡を見ておられたんですね?」
部屋に入ってきた時の信長様の真剣な様子を思い出し、なるほどこれなら書簡の細かい字も見やすいな、と納得しながらも………同時に、眼鏡姿の色っぽい信長様を思い出してしまい、頬が微かに熱くなった。
「……顔が赤いぞ?」
「えっ、やっ…これはっ…その….」
(言えないっ…眼鏡姿の貴方に見惚れてました、なんて…)
急にしどろもどろになって、頬を押さえて俯きながら、黙って眼鏡を返す私を見ていた信長様は、不審そうに眉間に皺を寄せておられたが…急にニヤニヤと笑い出す。
「なるほどな…本当に貴様は分かりやすいな……俺がこれを身に付けた姿、そんなに良かったか?」
「っ……何でっ……」
(やだ、もう…何で分かったんだろう…)
心の内を見透かされた恥ずかしさで、更に顔を赤らめる私に、信長様は満足そうに顔を緩める。