第62章 嘘つきには甘い罰
「……寝たようだな」
「ふふ…寝ちゃいましたね」
「くくっ…産まれたばかりの頃は寝つきが悪くて随分と難儀したが…少し大きゅうなると寝つきもよくなるのか?」
「ふふ…信長様のお傍で安心しているのですよ、きっと」
今宵、天主の別室に布団を敷き、結華を間に挟んで横になると、信長は、乞われるままに御伽草子を読んでやったり、話を聞いてやったりと、結華を存分に甘やかしていたが、結華の目蓋はじきに重たくなり、今はすうすうと穏やかな寝息を立てて眠っている。
「……朱里、こちらへ来い」
「あっ…やっ…ダメですよ…結華が起きちゃう…」
腕を引き、自分の隣へ来るように促す信長に、抵抗を見せる朱里だったが、信長はそんなことはお構いなしに、その華奢な身体を胸元に引き寄せた。
「んっ…」
信長の胸に倒れ込むように身体を預けると、すぐさま額にチュッと口づけが落とされて、ぎゅうっと抱き締められた。
それだけで身体の芯が疼き、とろんと蕩けた顔になる朱里を愛おしく思いながらも、信長は意地悪そうに告げる。
「俺への仕置きはせぬのか?まだ日が変わっておらぬゆえ、刻はあるぞ?」
「んっ…信長様は隙が無さ過ぎて…今日一日、私も頑張ったんですけど…」
「当たり前だ。俺はそんなに甘くはない。まぁ、今日一日、必死に俺を付け狙う貴様の姿は、見ていて飽きなかったがな」
(っ…やっぱり、気付いておられたんだ…。でも、今日一日楽しかったな、信長様と子供みたいに追いかけっこのようなことをして…)
「ふふ…信長様には敵いません」
「俺の弱点を狙うような大胆な奴は、貴様ぐらいなものだ」
「昔からお傍にいる家臣の方も、信長様の苦手なものは知らないんですか?」
「知らん。俺の苦手なものを把握するぐらいに、俺に近しい者など、貴様以外にはいなかったからな」
「そうなのですか…」
(私には心を許して下さってるってことだよね……嬉しいな。
信長様が心を許せる人が、周りにもっと増えたらいいのだけど…)
「……俺は、結華にも寂しい思いをさせたようだな」
隣に眠る結華の頭を、起こさないように優しく撫でながら、ぽつりと呟くように言う信長様の顔は、ひどく頼りなげだった。
「信長様……」