第62章 嘘つきには甘い罰
伸ばしかけの私の手を一瞥した信長様は、納得したように頷いた。
「なるほどな。そうきたか」
信長様は、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと私を壁に追い詰める。
ジリジリと後退し壁にトンっと背中が付くと、信長様は私の顔の両側に手を付いて、逃れられないように閉じ込めた。
(わっ………!)
「確かに、俺は仕置きをしろと命じた。内容を告げずにやれと言ったのも俺だ………だが、貴様、まさかこの世で最も許されん方法を取るとはな」
(やっぱり『くすぐり』は拙かった??私、ただじゃ済まないかも……)
「ご、ごめんなさい…これ以上のお仕置きが思いつかなくて……でも、さすがに駄目でしたよね。っ…やっぱり今から、別のお仕置きを考えます……」
慌ててそう告げると、頭にぽんと手を置かれる。
「俺はやめろとは言ってない」
「えっ………?」
「ふっ…貴様の度胸に免じて、今日だけは特別に、その仕置きをすることを許してやる。そもそも、どんな罰でも構わんと言ったのは俺だしな」
「信長様………」
「仕置きを遂行できるよう、励め」
(励めって………もしかして………信長様、愉しんでる??)
その後、政務を再開した信長様のお傍で、私は信長様をくすぐるべく機会を窺っていたのだけれど…………
信長様の守りは堅く、首筋に手を伸ばすことすら難しかった。
(う〜ん…手強い。信長様って…背中にも目があるんじゃないか、って思うぐらい鋭いよね……)
背後から手を伸ばしても、すぐに気配を察知されて振り向かれる。
ニヤッと笑う、その余裕綽々の顔が何だか悔しい。
結局、信長様には指先一つ触れられないまま、夕餉の時刻になり、膳を運ぶ女中達とともに、私は結華を連れて天主へと向かった。
「父上っ!」
襖を開けて、室内に父の姿を見つけた結華は、一目散に信長様の元へと歩いていく。
「結華っ!来いっ!
…いい子にしていたか? ん、今日は何をしていた?」
歩み寄って来た結華をすぐさま抱き上げた信長様は、目線を合わせて柔らかな眼差しで結華を見つめながら、話をしておられる。
(あっ…お怪我、大丈夫かな……)
勢いよく結華を抱き上げられたので、肩の怪我が心配になるが、信長様の表情からは怪我を微塵も感じさせない。