第62章 嘘つきには甘い罰
「信長様、お話し中、失礼致します」
(あっ………)
家臣の方がやって来て、私は慌てて、伸ばしかけていた手を引っ込めた。
「どうした?」
「先程安土から届いた報告書なのですが、目を通して頂けますでしょうか?」
家臣の方が差し出す報告書にさっと目を通して、いくつか指示をした後で、信長様は私に視線を戻す。
「よし…では、先程の続きだ」
(どうしよう、何だか拍子抜けしちゃった………)
信長様をくすぐる勇気が、すっかり萎んでしまった。
「あの……仕切り直したいので、一旦待って頂けますか?」
おずおずと私がそう聞くと、信長様はいっそう愉しげに口端を上げた。
「ほう…焦らすのもまた、仕置きの一部ということか。面白い…よほど貴様も趣向を凝らしておるようだな」
(ええっ…そんなつもりじゃなかったんですけど………!)
思いがけず、信長様の期待が高まってしまったようで内心焦る。
「うっ…が、頑張ります……」
何だか取り返しのつかないことになってしまった気がするけれど、ひとまず次の機会を狙うことにして、私は飲みかけのお茶を勢いよく、ぐいっと飲み干した。
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数刻後
(よし、次こそは………)
私は二度目の挑戦のため、廊下を歩く信長様の後をこっそり付けていた。少しずつ距離を縮めていたら……
「……ねぇ、何してるの?」
「…………!?」
突然、背後からかけられた声に驚いて振り向く。
「あんた…こそこそと、怪しいんだけど」
家康が、訝し気な顔で私を見ていた。
「ええっと…これは、そのっ…あのぅ……」
「はぁ、何やってるんだか……信長様に用があるなら、さっさと行けばいいでしょ」
「うん。でも、ちょっとまだ心構えができてなくて」
「は?心構えって……あんた、一体、信長様に何しようとしてるわけ??」
「ちょっと……首筋を狙ってて」
「は?」
悠々と先を歩いて行く信長様を、家康がじっと見る。
「はぁ…全く訳が分からないんだけど、まあ頑張って」
家康は呆れ顔でそう告げると、さっさと離れていった。
気を取り直して信長様の背後に近づいていく。
あと少しというところで……不意に信長様が振り向いた。
「貴様……こそこそと何をしている?」
(わっ、見つかっちゃった!)