第62章 嘘つきには甘い罰
『怪我が完治されてない御館様が、あまりご無理をなさらないように、朱里も気に掛けておいてほしい』
秀吉さんは、そう言って帰っていった。
(秀吉さんは凄いな…信長様のこと、本当によく分かってるんだ。
私も、信長様に守られてばかりいるんじゃなくて、あの方を支えていけるようになりたいな…)
秀吉さんが帰った後、私は家康のところを訪ねることにした。
「家康、いる?入ってもいい?」
「朱里?どうしたの?何かあった?」
家康は机に書物を広げ、薬草を仕分けているようだった。
「あ、忙しいのにごめんね。兵達の怪我の具合が気になって…」
「ああ、怪我が重い者は城内で様子を見てる。軽傷の者も数日は休ませるように、と信長様からお達しがあったから……まあ、大丈夫でしょ」
「そう…よかった」
「『怪我をした者は俺の足手まといにならぬように、治るまで大人しくしていろ』」
「…ええっ!?」
「信長様は、朝一番に、怪我をした兵達の様子を見に来て、そんな風に言ってたけどね……兵達は全員涙ぐんでたな。
ほんと、何年経ってもあの人には敵わないよ…」
「っ…家康っ…」
信長様の生死がはっきりしなくて辛い思いをしたのは、家康も同じだ。
私が、信長様不在の大坂城を守れて、皆を纏めることができたのも、家康がいつも私を支えてくれていたからだ。
「あんたは?何か悩んでるっぽい顔してる…信長様と何かあったの?」
「あ、うん…実はね………」
「はぁ…何の悩みかと思えば…くだらない」
(うっ…相変わらず手厳しいな…)
「『信長様にお仕置き』ねぇ…はぁ…あんたにそんなことできる度胸あるわけ?」
呆れたように溜め息を溢す家康に、返す言葉もない。
「や、でも、何でもいいって…簡単なものでもいいんじゃないかな…例えば、金平糖を没収する、とか?」
「それはいつも秀吉さんがやってるでしょ」
「…あ…そっか…」
「まぁ、でも…大切なものを取り上げる、っていうのはいいかもね」
「信長様の大切なもの、かぁ…」
(それがまた難題なんだよね…)
「あとは…弱点を責める、とか?」
「っ…ぶはっ!」
「ちょっとっ…何やってんのっ!汚ったない…」
飲んでいたお茶を勢いよく噴き出した私に、家康は心底嫌そうに顔を顰める。
「だ、だって、家康が『弱点を責める』とか言うから…」