第62章 嘘つきには甘い罰
私の言葉に微かに頬を赤らめる秀吉さんを見て、自分から言っておきながら、私も何だか恥ずかしくなる。
「御館様は、怪我のこと、なんて仰ってた?」
「大したことない、軽い火傷で、もう治りかけてる、って……」
「…………そうか」
「……秀吉さん?」
いつも私を安心させてくれる優しい笑顔が見られず、どこか苦しそうな悩ましげな秀吉さんの様子が気になって……
「秀吉さん…どうかした?」
「っ…朱里、御館様には内緒な。御館様のあの怪我…もう治りかけてるのは本当だけど、決して軽くはなかったんだ…」
「えっ……」
「本能寺を脱出してすぐ大坂に戻らず、しばらく阿弥陀寺に身を寄せていたのは、御館様のお怪我のためだったんだ。
火傷のせいで、一時高熱が続いてな…それでも御館様は無理をしてでも大坂へ戻ると仰ったんだが…」
「っ…そうだったんだ…」
「口には出されなかったけど、お前のこと、すごく案じておられた。光秀なら必ずお前を守るって思っておられただろうけど、一時でもお前を手離すことは、御館様には苦渋の決断だっただろう」
自分のことのように苦しそうに顔を歪める秀吉に、朱里はかける言葉が出てこなかった。
(怪我を負われた信長様のお傍で、秀吉さんだって辛かっただろう。
本能寺での戦いがどういう状況だったかは分からないけど、信長様のことを一番心配してくれているのは秀吉さんだもの……)
「お怪我の様子を見ているうちに光秀から知らせが届いてな、それでそのまま……『敵を欺くには味方から』ってことで、家康達にも一切知らせなかったんだ。朱里、お前にも辛い思いをさせてしまって、申し訳なかった」
「そんなっ…謝らないで、秀吉さん。
信長様を失ってしまったら…って毎日すごく不安だったけど、信長様のお傍には秀吉さんが居てくれる、きっと大丈夫だ、って思ったら私、頑張れたよ」
「っ…朱里……ありがとな」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる秀吉さんの手はどこまでも優しい。
信長様以外の男性に頭を撫でてもらうなんて滅多にないことで、信長様はどう思われるかなぁ、なんて、ちょっと心配にはなったけれど……
信長様の妻になって、結華の母になっても、いつまでも私を実の妹のように大切に見守ってくれる秀吉さんに、今は少しだけ甘えていたかった。