第61章 試練の時
それから負傷兵達の治療と城内のある程度の片付けを終えた頃には、辺りはもう暗くなり始めていた。
予期せぬ奇襲を受けた大坂城は、城外は破損した箇所も見られたけれど、城内まで攻め込まれることがなかった為、城の中は奇跡的に被害もなく済んでいた。
(よかった…信長様がこだわってお作りになった城を守れて…)
「さて…信長様、本能寺での一部始終、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
片付けの済んだ広間に集まった武将達から熱っぽい視線を向けられ、家康からはジトっと睨まれながら問い詰められて、信長は苦笑いを浮かべる。
いつものようにニヤニヤと含み笑いをする光秀
信長の傍で心酔したように熱い視線を送る秀吉
負傷した腕に巻かれた包帯が痛々しくも、天使のような微笑を浮かべる三成
どこか不貞腐れたような、呆れた顔をする家康
西国で謀叛の鎮圧にあたっている政宗だけはこの場に居ないが、その政宗からも、先程、『謀叛は無事制圧した』という知らせが早馬で届いていた。
武将達が揃ったその光景は圧巻で、信長は、再びこの広間で皆と相対することができたことを、秘かに感慨深く思っていた。
傍には、少し疲れたような表情だが安心したように肩の力を抜いた、朱里が控えている。
(……また少し痩せたか…辛い思いをさせたからな)
華奢な身体に羽織った打掛が、何となく重そうで痛々しい。
先程城内で再会した時は、袴姿で頭に鉢巻を巻いた勇ましい姿だったこともあり気付かなかったが、離れていた間の心労が随分と溜まっているようだ。
ズキリと胸が痛んだ。
「ふっ…秀吉、話してやれ」
「はっ!……本能寺で御館様を襲ったのは毛利元就だった。
朱里が光秀と共に寺を出てすぐ、元就は寺に火をかけた。油も撒いたらしくて、予想以上に火の回りが早かったんだ。
御館様が元就と直接斬り合いなさっていた時に、寺の建物が焼け崩れて、燃えた瓦礫が御館様達に降り注いで………一瞬、ダメかと思った」
「間一髪だったな、辛うじて避けられたのは。元就にとどめを刺せなかったのが悔やまれるが……」
「っ…あの…元就さんは…」
「分からん…その後すぐに火の勢いが増して寺が焼け落ち始めたのでな。両軍とも混乱状態だった。火に囲まれた寺内から奴が逃げ出せたかどうかは知らぬ」
「……そうですか…あ、あの…信長様達はどうやって本能寺から?」