第61章 試練の時
次から次へと運ばれてくる負傷兵達の治療をしながら、侍女達へも指示をしたり、と広間の中は目が回るほどの忙しさだった。
今にも城内が敵の襲撃を受けるのではないか、という不安を抱えながらも、目の前で傷の痛みに苦しんでる人を助けたくて必死に手を動かす。
動いていないと、余計なことばかり考えてしまうような気もしていた。
「……あれ?」
外からひっきりなしに響いていた矢玉の鳴る音がピタリと止まったことに、ようやく気付く。
兵達の怒号や、刃が合わさる甲高い金属音なども、いつの間にか聞こえなくなっていた。
私だけでなく広間にいる兵達もそのことに気付いたらしく、皆、不安そうな顔をみせていて、時折ひそひそと噂をしている。
一瞬、しんっと静まり返った城内の様子が、先程までの煩いほどの喧騒と反していて、余計に不安を掻き立てられた。
(っ…静かになった…外はどうなってるんだろう…家康っ、三成くんっ…二人とも、どうか無事でいて…)
前線へと戻る家康を見送った時の情景が甦ってくる。
怪我をして運ばれて来る兵達
手の施しようのないほど酷い怪我を負った者
治療の甲斐なく息を引き取る者
手の中で儚く零れ落ちていく、救えなかった命
今日一日で多くの命が失われた。
悲しみの連鎖は断ち切れないのだろうか……
もうこれ以上、大事な人を、大切な命を、失いたくはないのに……