第60章 京へ
「くくっ…往生際が悪いぜ、第六天魔王?」
「くっ…貴様っ、元就…往生際が悪いのはどっちだ?まだ生きておったとはな……」
刀を合わせたまま、間近で睨み合う。
互いの紅玉の瞳が激しく交わり合って、二人の間に緊迫した空気が漂う。
ギリギリと力任せに押し合っていた刃を一気に離し、信長は素早く元就との間に距離を取った。
「しばらく姿を見なかったゆえ、俺の首は諦めたのかと思っていたのがな…この、死に損ないめ」
「吐かせ、お前にはここで死んでもらう……お前が死ねば、再び天下は乱れる…くくっ、愉しい乱世の再来だ」
「くっ…貴様っ…」
元就は口元に残忍な笑みを浮かべてニヤニヤと笑いながら、信長の周囲をチラリと見回してから、氷のような冷たい声で問う。
「………朱里はどこだ?」
「ふっ…やはり朱里も狙いだったか…残念だな、貴様の思い通りにはならんぞ」
不敵に笑う信長を、元就は不審そうに見遣っていたが、やがて何かに思い至ったようにハッと息を呑む。
「………まさか…逃したのか? はっ、お前があの女を手離すとはな…迂闊だったぜ」
ギリっと奥歯を噛み締めた元就は、すぐさま近くの部下に指示を出そうとするが…信長の鋭い刃が間髪入れずに襲いかかり、それを許さなかった。
「チッ、どこまでも目障りな野郎だぜ。
朱里は今度こそ俺がもらう。お前はとっととあの世へ行きやがれ」
「吐かせ、あの世へ行くのは貴様の方だっ!」
言うや否や、強く踏み込んで距離を詰めると、ギラリと光る刃を振るい、元就の胴を横一閃に薙ぎ払う。
ーキンッ!ガチンッ!
信長の強烈な一撃をギリギリのところで受け止めた元就だったが、受けた衝撃はかなりのもので、僅かによろめいたところに、更に間髪入れずに第二撃が頭上に振り下ろされる。
ーガキンッッ!
「っ…くっ…」
元就の頭上に振り下ろした白刃を、受け止めた元就の腕ごとギリギリと押し切るように斬り伏せようとする信長の顔は、その熱い戦いとは裏腹に、能面のように白く冷めきったものだった。
「…終わりだ、元就」
信長が愛刀に渾身の力を込めた、その瞬間………
ードォンッ!ドォンッ!
二人のすぐ近くで大きな爆発が繰り返し起こり、紅蓮の炎が勢いよく上がるとともに寺の建物がバラバラと崩れ落ち、二人の頭上に降り注いでいった。
「っ…御館様ぁーっ!」