第60章 京へ
その日の夜、私は信長様の宣言どおり、昼間のお仕置きと称して、散々に乱されて、信長様が満足するまでたっぷりと愛を注がれたのだった…………
明け方近く
私は、隣で信長様が急に起き上がった気配で覚醒した。
(んっ…なに…?)
「………光秀か?」
眉間に皺を寄せた信長様は、襖の向こうに低く声を掛ける。
その表情は、常には見たこともないような険しいもので、声にも緊張感が漂っていた。
襖がスッと開いて、下げていた頭を上げた光秀さんの表情も、いつもの飄々とした意地悪な顔ではなく、珍しく固く強張っているようだった。
「………御館様、ご無礼を」
「よい、状況を報告せよ……数はどのぐらいか?」
「はっ、さほど多くはないかと…ただ、此方は今は僅かしか手勢がおりませんので…」
「洛外の軍勢に繋ぎは取ったか?」
「はっ、しかし…合流するには刻を要します。既に寺は囲まれ始めております」
「……相手は誰だ?」
「旗印は『一文字三星』…毛利かと」
「……元就か…くっ…懐かしい名だな」
「毛利は先の戦で家臣団は全滅した為、元就に従うのは、海賊どもと雇われ浪人の寄せ集め、恐るるに足らぬ相手だとは思いますが」
急に始まった信長様と光秀さんとの会話に、私の頭は混乱するばかりだった。
(っ…敵襲?囲まれてるって…?毛利…元就さんが?どうして…?)
その名を聞いて、ハッとなる。
(あの時の…あれはやっぱり…元就さんだったの……?元就さんが信長様を……)
急に襲ってきた、戦の恐怖にゾクっと背筋に悪寒が走る。
「っ…あ、あのっ、信長様…」
震える手で、そっと漆黒の夜着の袖を握って声を掛けると、振り向いた信長様は、強張った表情を崩して私を安心させるようにふわりと笑った。
「……案ずるな、貴様に危害は加えさせん……光秀、朱里を連れて先に寺を出よ。今すぐならば、完全に囲まれる前に抜けられよう」
(…………えっ?なに言って……)
「の、信長様っ…何を仰って…寺を出るなら一緒に…」
「それはならん、俺はここで元就を迎え討つ。奴の狙いは、俺の首と……朱里、貴様だ。
貴様を奴に渡すつもりはない。光秀と共に行け」
「イヤっ!信長様っ、私も共に戦いますっ…だからお傍に…」
「ならんっ!もう刻がないのだ…聞き分けよ」
「やっ、イヤですっ!どうして……」