第10章 小さな恋敵
その夜、私は江姫にせがまれて、一緒に天主の信長様のお部屋を訪ねていた。
「伯父上、江と囲碁勝負をして下さいっ!」
「伯父上、この物語、一緒に読んでほしいです…」
「伯父上は……どのような女子がお好きですか??」
江姫は信長様にべったりで、信長様も満更嫌でもなさそうで、終始笑顔で江姫のやりたいように付き合っておられた。
その微笑ましい光景に最初は笑って見守っていた私も、2人の仲睦まじすぎる様子に何だかモヤモヤしてきてしまい、自然口数が少なくなっていた。
(っ、相手は子供だよ。しかも姪っ子だし。嫉妬するなんて、私の方が子供っぽすぎるっ)
「……顔から感情が漏れてるぞ。貴様の百面相は面白いな」
「わっ、ひゃあ」
いつの間に移動したのか、いきなり後ろから抱き締められて耳をカプっと甘噛みされる。甘い痺れが背中を突き抜ける。
「んっ、やんっ。信長さま、江姫は?」
「ふっ、寝た」
見ると、信長様の羽織の端を握り締めたまま眠る江姫の姿があった。
いつの間にか褥が用意されている。
幸せそうに眠る姿を見て、先程までのモヤモヤした気持ちはどこかに行ってしまい、
「ふふ、可愛いですね」
「……貴様の方が可愛い。
このあとは…どうなるか分かっているのであろうな?
今宵も存分に愛でてやる」
「えっ、やっ、だめですよ、江姫がいるのに……」
「眠っているのだ、問題あるまい。
貴様が大きな声で啼かねば、な」
口元に艶やかな笑みを浮かべて意地悪そうに告げられた言葉に恥ずかしくて顔を赤くする。
そんな私の額に軽くチュッと口付けてから、私を抱き上げ、江姫が眠るすぐ隣に敷かれた褥へ移動する。
甘い甘い禁断の時間の始まりに、鼓動が騒いで仕方がなかった。