第60章 京へ
「朱里っ、戻ったぞっ」
陽が西の空へと傾きかけた頃、ようやく信長様が御所から戻られた。
出迎えのため寺の玄関まで出ると、朝方見た麗しいお姿のまま、少し疲れた表情の信長様がいらっしゃった。
「お帰りなさいませっ、信長様。遅くまでお疲れ様でした」
「ああ、公家どもの相手は心底、疲れるわ。堅苦しいのは、俺の性に合わん」
「ふふ…」
「……この正装もいまだに慣れん。朱里、着替えるゆえ、手伝え」
「あっ、は、はいっ!」
(よくお似合いだけど……残念、もう少し見ていたかったな…)
余程窮屈で早く着替えたいのか、すたすたと廊下を歩いていく信長様の後を慌てて追いかける。
部屋へ入ると同時に、さっさと装束を脱ぎ始める。
「あっ…ちょっ、信長様っ…待って…」
ぽんぽんと彼方此方に脱ぎ捨てられる装束をかき集めながら、私は焦っていた。
(着替え、まだ用意してないのに…)
「っ…きゃっ!やっ、やだ…」
あっという間に上半身裸、下帯だけの姿になってしまった信長様は、その引き締まった男らしい身体を私に見せつけるように、目の前で仁王立ちする。
筋肉質な逞しい身体は男の色気たっぷりで、目のやり場に困ってしまう。
「あっ…わ、私…着替え、取ってきます…」
その場から早く逃げ出したくて踵を返した私の腕を素早く掴んだ信長様は、ぐいっと力強く私を引き寄せて……腕の中に閉じ込めた。
「んっ…やっ…」
裸の胸元に顔を埋める形になり、恥ずかしくて、一気に全身が熱を持ったように熱くなる。
「っ…あのっ、お着替えを…」
「……気が変わった…着替えは貴様を愛でてからにする」
ーちゅうっ ちゅっ ちゅぷっ
首筋に強く吸い付かれて、腰の奥がズクンっと甘く疼く。
「あっ…んっ!やっ、待って…夕餉もまだですし…」
「飯など後でよい…ふふ…貴様を先に喰らうとしようか」
カプッと耳朶を甘噛みすると、尖らせた舌先で耳孔の入り口をツーっと舐めていく。
時折、奥まで舌を突っ込んでべちゃべちゃと音を立てて舐め回されると、耳から直接感じる音の刺激に、頭の奥にまで痺れたような快感が訪れる。
「あ"ぁっ…ん"ん"っー!」
思わず大きな声を上げてしまった私の唇に、信長様の骨張った長い指がぎゅっと押しつけられて、耳元で意地悪そうに囁かれた。