第59章 新しき城〜魔王の欲しいもの
「あ…私……星が流れるのを見るのは初めてで……そういう言い伝えは聞いたことはありますけど…実際目にすると、ただ綺麗だなって思っちゃって…恐ろしいとかは全然……」
「くっ…貴様はやはり面白いな。
……毎年、この辺りの時期になると、よく星が流れるのだ。城下の灯りも消える時刻ゆえ、天主からでもよく見える。
安土でもこの時期よく見ておったのだが、大坂でもまた同様に見られるとはな」
話している間にも次々に流れている星を見つめながら、信長様は満足気に言う。
「…えっ?毎年?毎年、見られるんですか?安土のお城でも見ておられたのですか??
私、見たの初めて……どうして今まで教えて下さらなかったんですかっ?」
(今までお一人で見ておられたの??全然気が付かなかった……)
「くっ…そんなに頬を膨らませおって…貴様、愛らしいにも程があるぞ」
苦笑いを浮かべて、私の頬をちょんっと指先で突く。
「んっ…もう…」
「皆が星が落ちる様を恐れ、見たがらないゆえ、貴様もそうかと思っておったのだ。毎年、夜も深まった時刻に見えるから、起こすのも忍びなかったしな」
「……信長様は、怖くないんですね」
「当たり前だ、俺はそのような迷信の類いは信じぬ。
毎年同じような時期に起こるというのは、何らかの規則性がある現象ということだ。
ゆえに、神の怒り、不吉な予兆などではない。
それに…美しいと思わぬか?
星は、流れ落ちる前に一際明るく大きく輝きを増す。
最大限の命の輝きのあと、一瞬にして潔く消える様は、人の生き様のようで、至極心惹かれるのだ」
「……信長様…」
「人は誰しもこの世に生を受け、いつかは必ず死ぬ。永遠に続く命などないのだ。
いつかは消える命ならば、後悔などせぬように、己の思うままに生きて、その証しを遺したいと思う。
星のように、最期の瞬間まで輝いていたいと願うゆえ……俺は、流れる星を恐ろしいとは思わぬ」
初めて聞く、信長様の生きることに対する決意は私の心に重く響く。
(そんな風に思って日々を生きておられるなんて……思っても見なかった。
信長様がいつも、自分の思うがままに振る舞われているのは……生を儚いものだと、命は限りあるものだと、だから精一杯、今を生きるのだと、そう思っておられるからなんだ……)