第59章 新しき城〜魔王の欲しいもの
その日、夜も深まり、城内も静まり返った夜更け、私は何の前触れもなく、ふと目が覚めたのだった。
(ん……まだ夜なの…暗いな…)
行燈の火も消えた室内は暗く、急に目覚めた頭は暗闇についていけない。
昨夜眠りについてから、どれほどの時が経ったのだろうか。
(ん……信長様は……)
隣にあるはずの温もりを求めて寝返りを打つけれど、隣には、昨夜いつものように愛を交わし一緒に休んだはずの愛しい人の姿が見当たらない。
「……信長様?」
深い闇に包まれた静かな寝所の中で一人、心細さから名を呼ぶが、返事はない。
(っ…どこに行かれたの?)
乱れた夜着を着直して褥を出ると、寝所の襖を開ける。
「……朱里?起きたのか?」
声のした方に目をやると、信長様は、廻縁に出て欄干に凭れながら暗い夜空を見上げておられた。
「信長様…どうなさったのですか?」
夜着の襟元を押さえながら信長様のもとへ行くと、肩に羽織っておられた純白の羽織をさっと脱いで私に羽織らせてくれる。
羽織からは、信長様の温かな体温と伽羅の香の香りが感じられて、心が落ち着く。
「ありがとうございます。あのっ、このような夜更けに何を…?」
「ん………星を、見ていたのだ」
「……星…ですか?」
夜空を見上げる信長様につられて、私も上を見上げた、その時……
「あっ!」
真っ暗な夜空を一筋の煌めく光が横切っていく。
パッと一際大きく光った光の玉は、次の瞬間にはツーっと流れて消えてゆく。
「信長様っ、星が!あっ、また…あっ、あっちも…!」
暗闇に瞬く星は次々に流れては消えてゆく。
暗い夜空に無数の光の帯が映し出される光景は、瞬きする間も惜しいぐらいに美しかった。
「うわぁ〜、星があんなに沢山流れて…綺麗っ!」
予想外の光景に思わず感嘆の声を漏らす私を、信長様は意外そうに見ている。
「ふっ…貴様は……恐ろしくはないのか?」
「えっ?」
「星が落ちる様は不吉な予兆、天変地異の前触れ、などと言われている。
天高く輝く星が、一際光り輝いた後に流れ落ちて消える様子は、天の怒り、神の裁きを表しており、その光景を見た者には良くない出来事が起こる、などと言われて、皆が星が落ちる様を見ることを恐れておる」