第59章 新しき城〜魔王の欲しいもの
「はぁ…みんなの話聞いてると、信長様って何でも思うままに手にすることができる御方なのに、物に執着しない方なんだよね…」
「だから……あの人が唯一執着してるのが、あんたなんでしょ?」
フッと困ったような呆れたような苦笑いを溢して、家康が仕方なさそうに言う。
「あんたは気づいてなかっただろうけど、昨日の宴の席で、あんたが俺達の席まで降りて話し込んでる時のあの人の顔、天下人の顔じゃなかったよ。一人の男の顔。妻が他の男どもに囲まれて楽しそうにしてる姿見て、もやもやしてる、余裕のない夫の顔だった。
……って、言わないでよ、これ。俺、まだ死にたくないんだからね……」
「家康……」
「朱里は、何で御館様の欲しいものが知りたいんだ?」
秀吉さんは宥めるような優しい口調で聞いてくれる。
「信長様はいつも、私と結華が何か欲しいって言う前に、私達の欲しいものを下さるの…きっと私達のこと、よく見て下さってるんだと思う。
でも私は…信長様に何もお返しできてない。信長様が本当に欲しいものすらも…何にも知らないんだ…信長様のことも分かってるようで分かってないんじゃないか、って思っちゃって……」
「朱里……」
「信長様に何か品物を贈りたいっていう訳じゃないの…ただ、もっと信長様のことを知りたい、っていうか……」
今更、何を言い出すのかと思われているだろうか。
出逢って、夫婦になって、子も成した相手のことを知りたいだなんて…恋仲になる以前の乙女でもあるまいし、と笑われるだろうか。
信長様は、あまり自分のことを話さない御方だ。
私が聞けば答えてはくれるけど、自分から相手に理解してもらおうとはなさらない。
他人がどう思おうと自らの信念を曲げることなく、己の信じる道をただ真っ直ぐに進むような方だ。
(だから周りに誤解されることも多いんだけど……)
信長様のことをもっと知りたい。
今、何を考え、何を望んでおられるのか…
(信長様、私は貴方の全てが知りたいのです)