第59章 新しき城〜魔王の欲しいもの
翌日、皆が揃っての軍議が終わり信長様が退出された後、私は広間に残っていた武将達に声を掛けた。
「あ、あのっ、皆に聞きたいことがあるんだけど……」
「どうした?急に改まって…珍しいな、朱里が俺達に聞きたいことがあるなんて……何でも聞いてくれていいぞ?」
やっぱり秀吉さんは優しい。
「あ、あの…信長様のことなんだけど……」
「ん?御館様のこと?」
「っ…皆は、信長様の『今一番欲しいもの』が何か、知ってる?」
おずおずと尋ねてみて、皆の表情を窺うと、無言でお互いに顔を見合わせている。
「「「「「……………………」」」」」
「はぁ…朱里……あんた、惚気てるの?」
「……………………へ?」
長い長い沈黙の後、家康が溜め息とともに呆れたように言う。
「『信長様の今一番欲しいもの』って……あんたでしょ?」
「そうだな、うん、家康の言うとおりだ。御館様にとってお前は一番だもんな」
隣で秀吉さんが、うんうんと頷きながら同意を示している。
政宗や光秀さん、三成くんも家康の言葉に反論はないみたいだ。
「っ…あの、そういう話じゃなくてね……」
何だか恥ずかしくて、熱くなってしまい、俯いて頬を押さえながら質問の意図を説明する。
「う〜ん、じゃあ金平糖か?」
「あっ、それも除外で」
「じゃあ、茶器は?」
「えっと…何か具体的にこれっていう有名な茶器があるの?信長様が欲しがってらっしゃるような…」
「いや、御館様からは特にお聞きしてないな…じゃあ茶器も違うのか…」
「う〜ん、そうだね……」
「異国のものはどうだ?御館様は異国の新しきものには、真っ先に興味を示されるだろう?」
光秀さんが口元に妖しい笑みを浮かべて言う。
「異国の……何だろう?色々あるけど…光秀さん、最近、堺で何か新しいものってありました?」
「さて…どうだったか…最近の伴天連からの献上品の中でも、御館様が特に興味を示されたようなものは……なかったな」
「そうですか……」
「信長様は、酒や食い物にもあんまりこだわりがない方だからなぁ…俺が作る凝った料理も喜んで下さるが、放っておくと毎日湯漬けだけでもいい、って方だからな。
ま、光秀も似たようなもんか」
政宗は、呆れたように苦笑いを浮かべている。