第59章 新しき城〜魔王の欲しいもの
「もう…しないで下さいね?」
「……………」
「信長様っ!」
振り向いて向かい合わせになり、キッときつく睨む真似をすると、悪戯を叱られた子供みたいな顔をなさる。
(もうっ……困った方…)
愛しさが込み上げてきて、抱きついて、その胸元に顔を埋める。
信長様の体温を直に感じられる、この瞬間が私にとってはとても落ち着く時間なのだった。
(やっぱり、どんな貴方も好き…)
そのままお互いに抱き締めあっていると、信長様がふと思い出したように話をされる。
「朱里、今宵は城移りを祝う宴を開くぞ。
午後には、家康と政宗も着く。大坂にも、彼奴らの御殿を用意したゆえ、御殿での生活が落ち着くまで、二人ともしばらくは滞在するであろう」
「ええっ、本当ですか?嬉しいっ、また二人に逢えるのですねっ」
家康と政宗に逢える
しかも今度は少し長く一緒にいられるらしい
安土の時みたいに、また武将達が全員揃うんだ、と思うと嬉しくて心が浮き立ってくる。
「ふっ…嬉しそうな顔をしおって」
「ふふっ…だって本当に嬉しいんです!早く逢いたいなぁ…あっ、私、城門まで迎えに出てもいいですか?」
「…………」
ーちゅっ ちゅうううぅ!
「ん"ん"っ!? ん"ん"ーっ!」
いきなり後ろ頭を引き寄せられて、噛み付くように口づけられる。
(いや、文字通り噛み付かれた気がする……)
(なっ、急に何なのっ??)
信長様は、舌で強引に私の唇をこじ開けると、突然のことに思考がついて行かずに呆然とする私の舌を、じゅっと強く吸い上げる。
ーじゅっ じゅぷっ じゅるじゅるっ
口の中を縦横無尽に暴れ回る舌の動きに翻弄されて、頭がくらくらと痺れ出す。
乱暴な舌使いに呼吸がついていかなくなった頃、ようやく唇が離された。
「っ…はぁ…はぁ…の、信長さま…?」
「………仕置きだ」
(!?何の??)
こうして、大坂城天主で迎えた初めての朝は、信長様に振り回され続けたまま過ぎていき、襖の前で遠慮がちに呼びかける秀吉さんの情けない声によって、ようやく終わりを告げたのだった………