第58章 いざ大坂へ
城下の人々の好奇心いっぱいの噂話が、輿の中にいても次々と耳に入ってきては心を乱していく。
みな好意的な視線を向けてくれているようで嬉しいけれど、かなり噂が一人歩きしているみたいだ。
(ううっ…実物を見てがっかり、って思われるのは辛いなぁ…)
「……朱里、着いたぞ、大坂城だ」
輿の中で、もやもやと落ち込んでいた私に、信長様の、力強く晴れやかな声が掛けられる。
輿が地上に下ろされて、外から入り口の戸が開かれると…信長様の大きな手が私に向かって差し伸べられていた。
「信長様、ありがとうございます」
その手を取り、しっかりと握ると、ゆっくりと地上に足を下ろす。
地面に降り立って顔を上げた私の目の前には、想像以上に大きく、天高く聳え立つような威厳を放つ、見事な城があった。
ほぅ、っと思わず息を呑む。次の言葉が出てこない。
煌びやかで豪華絢爛
安土城に引けを取らない、いや、寧ろそれ以上の豪華さだった。
「っ…信長様、これは……」
「ふっ…見事だろう?」
信長様の至極満足げな声が響く。
「っ…はいっ、こんな立派なお城、初めてです。何だか圧倒されてしまいます……」
「ふっ…中もなかなか凝った作りに仕上がってるぞ。貴様もきっと気に入るはずだ…さぁ、行くぞ」
「は、はいっ!」
信長様と結華と三人で手を繋いで、城の中へと向かう。
結華は初めての旅ということで、出立の時から随分とはしゃいでいたこともあり、少し疲れているようだったが、城を見た途端、また元気になったみたいだった。
「父上っ、すごく大きくて綺麗なお城ですねっ!」
「ああ、結華の部屋も広いぞ」
「信長様の居室はやっぱり天主ですか?」
当然そうなのだろうとは思いながらも、やはり気になっていたので聞いてみる。
「ああ、大坂城の天主もなかなか良い眺めだぞ…後で案内してやる」
「はいっ!楽しみにしてますね!」
華やいだ気持ちで城の中へと入っていく。
すれ違う家臣の方や侍女たちの顔も皆、喜びに溢れていて、この城での新しい生活の始まりに、否応なく期待が高まっていく気がした。