第57章 光秀の閨房指南
束縛しているつもりなどなかった。
ただ…心配だっただけなのだ…自分の目の届くところ、守れる範囲に置いておきたかっただけだ。
天下布武を成し遂げ、大きな戦の不安がなくなっても、俺の妻である限り、いつ危険に晒されるか分からない。
元就に朱里を奪われたあの時の、心が引き裂かれるような思いは二度としたくはなかった。
朱里はどう思っているのだろう
天下人の妻でなければ、もっと自由に、思いどおりに生きられたかもしれない、と思ったことはないのだろうか……
一度芽生えてしまった迷いは胸の内でぐるぐると回りながら広がっていく。
安土と京……離れた距離が急にひどく遠いものに感じられてしまい、恋しい想いが募る。
早く逢いたい
朱里……早く貴様をこの腕に抱きたい
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それからまた数日を京で過ごし、引き留める公家達を丁重にあしらって、ようやく帰国の途に着く。
「御館様、お疲れではございませんか?少しお顔の色が…」
隣で馬を歩ませている秀吉が、気遣わしげな顔で覗き込んでくる。
「……大事ない。京での滞在が予定より少し長引いたな」
「はっ、早く安土に戻りましょう…朱里も御館様のお帰りを心待ちにしているでしょうし……」
「ふっ…次に上洛する折は、あやつも一緒だ」
朱里は京へは行ったことがないと言っていた。
堺も……以前、商館に一日滞在したことはあるが、それだけだ。
朱里にも結華にも、まだ知らぬもの、新しいものを、これから沢山見せてやりたい。