第57章 光秀の閨房指南
そんな成り行きで、私は光秀さんから『殿方を悦ばせる閨房術』とやらを教えてもらうことになった。
もちろん実践する訳にはいかないから、枕絵やその手の書物を使ってのお勉強なのだけれど……初日から早速、私は大いに後悔することになる。
光秀さんは教えるにあたって必要だから、と信長様との閨での行為のあれこれを私に聞いてきたのだった。
「……なるほど…流石は御館様…既に色々と経験済み、とはな…恐れ入る」
(ううっ…恥ずかしい…)
光秀さんの淡々とした口調が逆に恥ずかしさを煽り、まともに顔を見られない。
(っ…でもっ…信長様に悦んでもらう為だもの…頑張らなくちゃっ)
「あ、あのっ、光秀さん…今話したことは信長様には内緒にして下さいね?」
「…無論だ…御館様にバレれば俺の首が飛ぶ」
(うっ…冗談に聞こえないです…)
「さて…お前の話を聞いていて思ったことを言おうか……
お前に足りないのは……攻めの姿勢だな」
「…………は?えっと…攻めの姿勢…ってなに?」
光秀さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
私はもう、嫌な予感しかしなかった。
「お前は閨では御館様に乱されてばかりだと言ったな?様々な手技も御館様の求めに応じる形、受け身でしか為されないのでは、新鮮味に欠けるし、驚きもないだろう。
ならば、たまには自ら御館様を求めてはどうだ?お前が主導権を握って、御館様を攻めるのだ」
(攻める?攻めるって…どうやって…??)
「で、でもっ…信長様が大人しく、黙ってされるがままになる筈が……」
行為の最初は私の好きにさせてくれても、最後はいつも信長様の好きなように抱かれてしまっているのだ。
私が主導権を握るなんて…無理に決まっている。
「……まぁ、普通の状態ならばそうだろうな……」
「………………えっ?」
「……御館様を、普通じゃない状態にすれば…な?」
光秀さんの瞳がキラリと妖しく煌めいているのを見てしまい、心の臓がドクっと大きく脈打つ。
その瞬間、自分自身が、もう引き返せないところまで来てしまっているのを自覚した私は、光秀さんが説明する妖しい手管を、眩暈を覚えながら聞くことになったのだった。