第57章 光秀の閨房指南
でも…光秀さんの言うことを頭から否定もできなかった。
『新鮮味に欠ける』
光秀さんに言われて、確かにそうかも、と思ってしまったのだ。
信長様との交わりに不満がある訳ではない。
むしろ逆……いつも私は意識を手離すほどに激しく愛されて、満足させてもらってばかりだ。
信長様の指先、唇、吐息…あれもこれもが、私の身体の隅々まで濃厚に愛してくれて……不満など感じたこともなかった。
私は信長様以外の殿方を知らないけれど、他の殿方を知りたいと思ったこともないぐらいに、信長様に心も身体も溺れていると思う。
でも……信長様はどうなのだろう……
私で本当に満足してくれている?
いつも私ばかりが乱されていて、信長様が我を忘れるほど乱れる姿は見たことがない。
行為の最中、少し余裕のない表情をされることはあっても、最後にはやっぱり自信満々の余裕の笑みで私を魅了し、はしたないほど乱れるのはいつも私の方だ。
信長様が乱れる姿が見たい
快楽に溺れて、余裕なく欲を吐き出す様が見たい
私が…私の手で…信長様を乱したい
「っ…あ、あのっ…光秀さん…そのっ…腕を磨くって、どう、したら…?」
意を決して尋ねると、光秀さんは一瞬、驚いたように目を見張った後、口の端に意地悪そうな笑みを浮かべながら、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「ふっ…お前はどこまでも素直だな……そういうことなら、俺がお前に指南してやろう…男を悦ばす手管をな…」
「は、はいっ…お願いします…」
(何とも純粋で素直なことだな…妻となり母となってもなお、御館様が夢中になられるのも分かる)
遠く離れた御館様を想い、一人身体を慰める姿を偶然にも見てしまい、少し揶揄ってやろうという軽い気持ちで遊廓の話などをしただけだった。
「もうっ、光秀さんったら、揶揄わないで下さいっ!」
そんな返しを期待していたのだが……
『乱れる御館様が見たい』などと、大胆なことを言う。
本当に、この姫は予想を超えてくるから面白い。
誘導されたとはいえ、俺に閨の指南を依頼して来るとは……
それだけ俺を信用してくれているということか……
ならば俺が期待に応えてやらねばなるまい。
御館様を、我を忘れるほどに乱れさせる、最上の手管と、とっておきの品を用意してやろう。