第9章 妹
お市様たちとの対面の日
大広間の上座でゆったりと脇息にもたれる信長様の隣で、私は緊張の色を隠せず、堅い表情で前を見据えていた。
「……兄上、お久しぶりでございます。お変わりないご様子、祝着至極に存じます」
深く頭を下げられたお市様の表情は堅く、一切の感情を消してしまわれたかのように、能面のような冷たい視線を信長様に向けられていた。
広間の中は緊張に包まれていて、身内同士の対面なのにどこか白々とした雰囲気が漂っていた。
「……市、元気そうでよかった。……姫たちも大きくなったな。
茶々は特に美しくなったようだ。市の幼い頃によく似ておる……懐かしいな」
目を細めて愛おしそうにお市様と3人の姫たちを見つめる信長様。
お市様のすぐ隣に座っている姫が少し険しい表情で信長様を見据える中、1番端に座っていた小さな姫が、突然声を上げる。
「伯父上!江は?江も綺麗になったでしょう?見て下さい!」
(ん?随分と元気な姫だな…)
「ふっ、江か。相変わらず貴様は元気がよいな。あとで天主に来い。天主から安土の町を見せてやる」
「はいっ!」
「朱里、姫たちを案内してやれ。貴様もあとで天主に来るがいい」
口元に優しい笑みを浮かべて、私の手に手を重ねてくださる。
冷たく凍えるような広間の空気が、江姫のおかげで少し和らぎ、ほっと息をついた。