第9章 妹
侍女の千代と2人で城下へ降りる。
久しぶりの城下は、相変わらず賑わっていて、人や物の往来も盛んで安土の豊かさと織田家の権勢を感じさせられる。
「ねぇ、千代。信長様の妹君ってどんな方かしら。千代は聞いたことある?」
「お市様ですね。日ノ本一の美女と名高い方ですよ。信長様とは同じ母上から生まれた妹君で、近江の浅井長政様に嫁いでおられたそうですね。
………でも、あの、姫様。浅井長政様は、信長様を裏切られて戦になり、その……お討死されたのですよ。
浅井家は滅び、お市様にとって信長様は夫の仇……乱世の理とは言えどのようにお思いなのでしょうね」
(信長様は妹君の夫を……)
(平気でなされたはずはない……近しい身内の裏切りは信長様の心を傷付けたはずだから……)
信長様の深紅の瞳の奥に垣間見える、冷たく凍えた悲しみの色を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。