第9章 妹
ある日の昼下がり
信長様に呼ばれて天主へ行く
「信長様、朱里です。入ってもいいですか?」
「ああ、入れ」
襖を開けて中に入ると、信長様は文机の前で書状を書いているところだった。相変わらず忙しそうで、信長様の周りには書状や報告書がうず高く積まれていた。
「お呼びと伺いました。何かご用事ですか?」
書状を書き終え花押を押しながら、私の方へ視線を移す。
「貴様に頼みたいことがあるのだ」
(信長様が私に頼み事??珍しいな、何だろう?)
小首を傾げて見つめる私に、
「今から城下に行って、金平糖を買ってきてほしいのだ。いつもの菓子屋でよい。金平糖のほかに、京の珍しき菓子などもいくつか見繕ってきてくれ」
「……金平糖に京の菓子、ですか??」
「実は……明日、我が妹、お市とその娘たちが安土に来る。妹たちは母とともに、今は伊勢の国で弟信包の庇護のもと暮らしておるが、安土の城を見に来るように、と俺が呼んだのだ」
(信長様の妹君……確か近江の浅井様に嫁がれていたのよね)
「姪たちはまだ幼いゆえ、甘味などは喜ぶだろうと思ってな、午後から自ら城下へ降りて買い求めるつもりであったが……見ての通り、急ぎの政務に追われておる」
信長様は目を細めながら書類の山を見て溜め息を吐く。
「分かりました!私、行ってきます!」
「悪いが、頼む……貴様も好きなものを買ってくればよい」
(信長様のお役に立てるなんて嬉しいな。城下に行くのも久しぶりだし)