第56章 秀吉の縁談
(一目惚れ!?これぞまさしく乙女の純愛…)
「秀吉様には、どなたか心に秘めた方がいらっしゃるのでしょうか……私とのお見合い、あまり気が進まぬご様子でしたが…」
「ええっ!?そっ、そんなことないんじゃない??今日はまだ会ったばかりだし、打ち解けるのはこれからよ!」
「……っ…そうですね…」
顔を上げて微笑む桜姫の笑顔は純粋で、眩しいぐらいに恋の喜びに溢れていた。
(本当に純粋でいい子みたい……秀吉さんに想いが伝わるといいけど……)
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その頃、執務室では………
「御館様、次はこちらの報告書にご決済を願います」
「…………………」
信長は次々と差し出される報告書に黙々と目を通しながらも、時折分からぬように秀吉の様子を窺っていた。
(此奴、見合いの席を出てから、一言もそのことについて触れぬな。一体何を考えておるのやら……)
「御館様、次は…」
「秀吉っ」
「っ…あっ、はい…」
「貴様、この見合い、気が進まぬのか?」
「い、いえ、そんな…御館様直々のお話、誠に有り難く…」
「たわけ、貴様の心の内など分かっておるわ。それにこの話は別に俺の肝入りでも何でもない。断る気なら、俺に遠慮はいらん。
だが…いい加減、貴様も気持ちを切り替えよ。いつまでも過去を引きずっておっては、先には進めんぞ」
「御館様っ…俺はっ…」
グッと唇を噛む秀吉を、信長は呆れたように見遣りながら、聞こえるように溜め息を吐く。
「……明日は休みをやる。桜姫に城下を案内してやれ」
「っ…いや、それは……」
「断ることは許さん。俺も明日は休みを取る……朱里と結華と三人で過ごすゆえ、邪魔をするでないぞ」
「御館様……」