第56章 秀吉の縁談
対面の儀が終わり、政務の為に執務室へ行かれる信長様と秀吉さんを見送った私は、桜姫に城内を案内することにした。
「奥方様自らご案内下さるなんて…申し訳ありません」
「いえいえ、ご遠慮なく。もう少しゆっくり秀吉さんと話す時間があったらよかったんですけど…ごめんなさいね」
先程の対面の場で、挨拶の後、信長様は秀吉さんに桜姫と二人でゆっくり話をするよう促されたのだけれど、秀吉さんは政務があるからと言って、二言三言話をしただけで行ってしまったのだ。
(気遣いの秀吉さんにしては、珍しく素っ気ない態度だったな…信長様との政務を優先したかったのかもしれないけど…)
「秀吉様はお忙しいのですね……」
少し寂しそうに俯く桜姫を、慌てて慰める。
「明日は秀吉さんが城下を案内してくれるから、その時にゆっくり…ね?」
「っ…はい、奥方様…ありがとうございます」
(っ…可愛いなぁ…恋する乙女って感じで…)
「あのっ、奥方様は信長様とどのようにして恋仲になられたのですかっ?お二人は、政略ではなく、想い合って婚姻を結ばれた、とお聞きしたのですが……」
「っ…ええっ??ど、どのようにって……」
「私も秀吉様と恋仲になりたいのです……」
真剣な顔で私を見つめてくる桜姫の気迫に圧倒されて、あたふたしてしまう。
信長様とどうやって恋仲になったのかと言われても……出会いは半ば強引だったし、その後も色々と信長様の色に染まっていき……信長様にあんな事やこんな事もされて……。
ダメだ、純粋な乙女には刺激的過ぎて言えないことばっかりだ…。
「あっいや、それは…お互い、いつの間にか好きになってたっていうか…いや、まぁ、そんな感じで…」
「………そうですか…自然な感じでお互い好き合って…素敵ですね」
「ええっ…あっ、そ、そう?」
(よかった…詳しく聞かれなくて…)
「えっと…桜姫は秀吉さんのどんなところが好きなのかな?」
話題を変えようと反対に質問してみると、桜姫は分かりやすいぐらいに朱に染まった頬を押さえて俯いてしまう。
「あっ、あの…秀吉様はとてもお優しくて…以前、父上と安土を訪れた時に私、秀吉様に一目惚れしてしまって…父上に無理を言ってお見合いの話を信長様にお願いしたのです」