第55章 初恋の代償
「…………っ…朱里っ!」
「……えっ?っ…あっ……」
隣を歩いていた高政に、いきなり腕を強く引かれて……気がつけばその腕の中に抱き竦められていた。
「やっ…た、高政っ…??どうしたの?」
「朱里っ…俺はっ…俺はお前が好きだっ!子供の頃からずっと…ずっと好きだった。お前が信長様の妻になったと聞いて、一度は忘れようと思った。でも…どうしても忘れられなくて…どうしても、もう一度お前に逢いたくて…
此度の使者のお役目も、自ら買って出たんだ。
お前に逢うため……それだけだった。
朱里、お前が信長様を想ってることは分かってる……でもっ…」
「やっ…高政っ…離して! んっ、んんっ…やっ…!」
強い力で抱き締められたまま身動きできない私の顔を覆うように、高政の顔が近づいてきて……
ーちゅっ ちゅうぅー
熱っぽい唇が重なって、愛おしげに吸い上げられる。
強引だけど優しい口づけに頭がひどく混乱してしまい、抵抗しなければと思うのに身体が動かなかった。
(んっ…だめ…こんなの…っ…でも…)
ちゅっ ちゅぷっ くちゅっ
頭の後ろに回された高政の手に力がこもり、口づけが深く濃いものへと変わる。息が出来ないほど深く貪られた後、舌先が唇の縁をつーっとなぞってゆくと、思わず、ぞくっと身体が震えてしまった。
(っ…やっ…だめっ!)
「んっ!やっ…やだっ!離してっ!」
精一杯の力で身を捩り、拳を叩きつけるようにして、高政の身体を押し返す。
「っ…はぁ…はぁ…」
「朱里っ……」
離れた二人の距離を、悲痛な目で見る高政の姿を見て、彼を傷つけてしまったであろう罪悪感でツキンっと心が音を立てる。
「ごめんっ!っ…ごめんなさい……」
顔を合わせることが出来なくて俯いたまま、駆け出していた。
呼び止める声が背を追いかけてきたけれど、後ろを振り向くことはできなかった。
振り向けば、何もかもが壊れてしまいそうだった。