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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第55章 初恋の代償


互いに口を開くのが何となく憚られて、気まずい沈黙が二人の間を流れていく。

その重苦しい沈黙に耐えられなくなった私は、わざとらしく明るい声を出す。

「安土にはいつまでいられるの?城下はもう見た?小田原とは比べものにならないぐらい賑わってるのよ」

「城へ上がる時に少し見たけど、確かに人も店も活気に溢れてたな。織田家の勢いがよく分かる」

「暫くこちらにいられるのなら、信長様にお願いして、私が城下を案内してあげる」

「えっ!?いや…いいのか、それ……?」

「うんっ!そのかわり小田原の話、父上や母上のこと、高政のことも……もっと聞かせて?」

「あっ、ああ……」

戸惑いながらも嬉しそうな笑顔を見せる彼の姿に、私は子供の頃の自分達に戻ったみたいな気がして、只々懐かしく、郷愁の念に駆られていたのだった。



朱里の部屋から聞こえる二人の楽しそうな話し声は、その後も暫く続き、懐かしい昔話に夢中になっていた二人は、その様子を遠目に窺う人影があることに最後まで気付くことはなかったーーー



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その夜、天主にて

文机の前で書簡に筆を入れていた信長は、微かな気配を感じて、そっと筆を置いた。

「御館様…」

「………光秀か、如何した?」

音もなく襖が開き、流れるような所作で室内へ入ってくると、光秀は信長の前へ膝を付く。

「御館様にお伝えしたき儀が少々……朱里のことで…」

「………………何の話だ?」

「北条家の御家老殿と朱里の関係について…先程、朱里の自室で仲良く昔話に花を咲かせるお二人の姿を目にしましたもので………。
………北条殿は、何やら朱里に並々ならぬ想いをお持ちのように見受けられましたが…」

「っくっ………」

ギリギリッと歯を食いしばる音が聞こえて、光秀は思わず顔を上げ意外なものでも見るように、目の前の信長を見る。

(ほぅ…御館様がこのように心乱されるとはな……嫉妬…か)


「…………何か言いたそうだな、光秀」

暗く冷たい色を宿した深紅の瞳が光秀を睨み据えており、慌てて深く首を垂れる。

「いえ…滅相もございません。…どう、なさいますか?」

信長の心の内を探るように、じっと見つめると、目を閉じて堅く唇を引き結んだまま微動だにしない。

やがて、ふーっと大きく息を吐き出すと、

「………放っておけ」




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