第55章 初恋の代償
「…………………」
(……っ、あれ??)
「あのっ、秀吉さん…?」
「……朱里…お前、これ………」
(やっぱりまだ膨らみが足りなかったかな? 固い、とか??)
「ご、ごめ「何だ、これ〜??すげー美味いんだけどっ?」」
(…………へ?)
「ふわふわ柔らかいのに、噛めばしっとりした甘さが口の中に広がって……甘い菓子だけど口当たりが良くて、何個でも食べれそうだな!お前、凄いな…南蛮の菓子まで作れるようになったのか……」
秀吉さんは珍しく興奮した様子で、菓子と私を褒めてくれる。
「あ、ありがとう…もうちょっとふんわり膨らむのが理想なんだけど、なかなか上手くいかなくて。それに、このお菓子、焼き立てはこんなにふわふわなんだけど、時間が経つと萎んじゃうんだ」
「そうなのか?」
「うん、だから金平糖と違って取り寄せたりできないの。
私が上手く作れるようになったら、信長様が食べたい時にいつでも作ってあげられるでしょ?」
「朱里……お前、御館様の為に…ううっ…ありがとな」
涙目になりかける秀吉さんに若干退きつつも、喜んでもらえたことが嬉しい。
(早く、南蛮寺で食べたのと同じものが作れるようにならないと……信長様が喜ばれるお顔が見たいな)
「……そういえば、朱里、聞いてるか?明日、北条家からこの安土にお使者が来られるそうだな?」
お茶を啜りながら、秀吉さんは思い出したように話し出す。
「あ、うん、小田原の父上がご隠居なされて弟が家督を継いだらしくて…弟っていっても腹違いの弟だけどね。信長様に家督相続の報告をしに使者を送る、って母上から文が来てたよ」
「明日は朱里も同席するんだろ?御父上や御母上のご様子も色々と聞くといい……もう何年も会ってないだろ?」
「っ…秀吉さん……」
秀吉さんは、慈愛に満ちた目で私を見つめている。
秀吉さんは本当に優しい。いつも私を実の妹のように見守ってくれていて……これまでだって私は何度も、秀吉さんの優しさに救われてきた。
安土に来た当初は、父上や母上に逢いたくて堪らず、人目を偲んでは涙していた。
でも……その度に秀吉さんは私を支えてくれて、私と信長様をいつでも見守ってくれていた。
父上や母上、実家のことが恋しくない訳ではないけれど…今の私には、この地に愛する人、守るべき人が沢山できたのだ。