第54章 記憶
またもや信長様の記憶を取り戻すことができず、見るからに落ち込んだ様子を隠すこともできないまま、城へと戻る道をとぼとぼと歩いていく。
隣を歩く信長様が、チラチラと私の方を気遣わしげに見ておられることにも気付いていたけれど、取り繕うこともできないほどに私は落ち込んでいた。
(っ…このままずっと記憶が戻らなかったら…どうしよう…)
信長様との大切な思い出が、跡形もなく崩れていってしまうような気がして不安に押し潰されそうだった。
と、信長様はそんな私の手をいきなりガッと掴むと、引き摺るようにして歩き出し、大通りから細い小道に入り、止める間もなくずんずんと進んでいく。
ようやく立ち止まったところは、薄暗く人気のない路地裏だった。
「あっ、あのっ…信長様??」
ードンッ!
「…っ…なに…を…」
いきなり壁際に押し込まれたかと思うと、身動きできないように壁に手を突いて密着されてしまう。
「……………城に戻るまで待てんっ、今すぐここで寄越せ」
「やっ、何を…ダメですっ、こんなところで…人に見られたら…」
(路地裏とはいえ、いつ何時、人が来るかも分からない…外で、なんて………)
焦る私の制止を全く聞く気がない信長様は、熱を宿した深紅の瞳で私を射竦めるように見つめて、
「………今日は、これを奪う」
ーちゅっ ちゅうぅぅ
「あっ…んんっ!やっ…」
いきなり首筋に強く吸い付かれて、頭の先からつま先までピリピリっと甘い刺激が走る。
ちゅっちゅっと啄むように小刻みに唇を押し付けたり、尖らせた舌で下から上へと舐め上げたり、と首筋への愛撫は止まらない。
「いやっ!やっ…待って…信長さまっ…」
着物の袷に掛けられた手を引き剥がそうとする私を、信長様はあっさりと押さえつけ、中へ手を滑り込ませる。
内側から緩く開かれて露出する鎖骨に、信長様の熱い唇が押し付けられると、そのままカリッと軽く歯を立てられた。
「あっつ…ん"ん''っ!」
思わず大きな声が出てしまった私の唇を、信長様の長い指がなぞる。
「くくっ…大きな声を出すでない」
「ん''っ…も、やだぁ…」
いつ人が来るかも分からない緊張感と、外で乱される恥ずかしさとで涙目になる私に、『仕上げだ』と言って、信長様は再び首筋に強く吸い付いた。