第8章 月下の誓い
やがて城下の外れまで歩いて………
「信長様、ここからは目を瞑って下さい」
「……分かった」
信長様の手を引いて、目的の場所まで導く。深呼吸を1つしてから、
「……もういいですよ、目を開けて下さい」
「……っ、これは……」
目を開けた先には、一面に広がる上品な白い花。いったい何本あるのだろうか。月光の下に白く浮かび上がり、甘く芳しい香りが辺り一面に広がっている。
「『月下美人』という花だそうです」
「……見事な眺めだ。このような場所が城下にあるとはな」
「この間、光秀さんの御殿を訪ねた帰りに城下で偶然この場所のことを聞いたのです。月下美人は1年に1度、満月の夜にしか咲かないそうです。朝になれば花は枯れ、また次の年まで咲かないと言われています」
「今宵一晩しか見れん、ということか」
「……この話を聞いた時、信長様と一緒にこの花を見たいと思いました。……来年も再来年も、そのまた先も……何十年先も。ずっと貴方のお側にいて、一緒に見ていたいと思いました。貴方がこの世に生まれた日を一緒にお祝いして、共に同じものを見続けていきたい、そう思ったのです」
「朱里……」
信長様は私の腰を引き寄せ、力強く抱き締めた。そのまま暫くの間、じっと黙って私を腕の中に閉じ込める。言葉はなくても、信長様の全身からその想いが伝わってくるようだった。