第54章 記憶

「…っ…大事ない、案ずるな」

「………何か、思い出されたのですか？？」

「………………いや。思い出せん……」

俺の答えに、見るからに残念そうな表情で肩を落としながらも、未だこめかみを押さえて俯く俺を、心配そうに顔を近づけ覗き込んでくる。
その耳元に唇でそっと触れて………甘く囁いてやる。

「…城へ戻ったら、また一つ貴様を奪ってやる。愉しみにしておけ」

「…っ…」





ーぴちゃ　ぴちゃ　ちゅっ　ちゅぷっ

「…ぁ…やっ、ん…だめぇ…」

甘ったるい声を出しながら、腕の中で身悶える身体を背後からがっちりと抱き竦めて、耳朶に舌を這わす。
軽く歯を立てて、柔らかな耳たぶを食めば、それだけで腕の中の身体はビクリと跳ねて反応する。


(くくっ…随分と耳が弱いらしい…今宵はこれにして正解だったな)

尖らせた舌で、耳の縁から穴の周りの入り組んだ窪みまでをツーッと丹念に舐め上げてから、はぁ…っと熱い吐息を吹きかける。

「…はっ…あぁんっ…息っ…かけちゃ…ゃっ…」

「………………挿れるぞ」

胡座を掻いた足の間に座らせた身体を後ろから抱き締めたまま、耳元で低く告げてから、耳の穴に熱くなった舌を挿し入れる。
狭く小さな穴の中をくるくると舐め回し、尖らせた舌で奥を突いてやる。

「……ひぃっ…あっああぁ…」

腰を揺らし、身を捩って、快感から逃れようと腕の中でもがく姿に、ひどく情欲を煽られる。

(くっ…なんと感じやすい身体か…耳だけでこのように乱れるとは)



このまま抱いてしまいたい
本能のまま押し倒して全て奪ってしまいたい

記憶が戻った訳ではない

だが……少しずつ、この女に惹かれ始めている自分自身を自覚する。
あんなに避けていたのが嘘のように、今は共に過ごす時間が愉しみで仕方がない。

この女のことをもっと知りたい

周りを明るくする太陽のような笑顔が見たい
耳に心地好い、美しく澄んだ声が聞きたい

快楽に堕ちる姿が見たい
淫らに啼く声が聞きたい


俺の記憶を戻す為に始めた、この賭けが、永遠に続けばいいのに、などと矛盾した考えが頭を過ぎる。

(記憶をなくす前の俺はどんな風にこの女を愛したのだろうか……)