第53章 業炎
秀吉の指揮の下、籠城する一揆勢に降伏を促せば、大多数の者が応じ、城内には浅井、朝倉の旧臣らが残るところとなった。
「…火矢を放て」
投降の為に十分な猶予を与えたあと、焼き討ちの命を出す。
残虐だと非難されるだろうか……だが今、非情にならねば、この後も一揆は起き続け、無駄に命が失われていく。
一揆など起こしても無駄死にだと、怨みを持ち続けても何も変わりはしないのだと、互いに分かり合える日は来るのだろうか……
戦には勝利したものの、何となく後味の悪いまま戦後処理を終え、安土への帰途に着く。
晴れぬ心の内は表情にも出てしまっているのだろうか…傍で馬を歩ませている秀吉は先ほどから何か言いたげにこちらを窺っているし、光秀もまた気遣わしげな視線を寄越している。
(俺らしくもない…彼奴らに案じられるなど…)
(…朱里……早く逢いたい。僅か数日しか離れておらんというのに…逢いたくて堪らん)
「…御館様、少し休憩致しましょう。この先の村の者が戦勝の祝いを申し上げたい、と集まっております」
秀吉が遠慮がちに声をかけるのを聞いて、馬上から見下ろすと、平伏する老若男女数名の姿が目に入る。後ろには幼い子供達の姿もあるようだ。
(結華と同じぐらいの年頃か…)
名主らしき老人が申すには、
『我らの村は一向宗とは距離を置いており、以前より浅井、朝倉の旧臣方の狼藉には難儀しておりました。此度、織田様の軍勢は我らの村を通過するにあたり、十二分にご配慮を下さいました。このようなご領主様は初めてでございます。
ひと言、ご戦勝のお祝いを申し上げたく、皆で参上致しました」
ささやかですが…と米や酒など戦勝祝いも持参しているようだ。
「皆、大儀である、面を上げよ。我らが村々の平穏を保つのは当たり前のこと。今後も困りごとがあれは遠慮なく申し出るがよい」
「ありがとうございます」
村人達から、村の様子や土地の情報を聞いている間、村の子供らは俺が怖ろしいのだろうか、大人の後ろに隠れてチラチラとこちらを窺っている。
その様子に苦笑しつつ、
「秀吉、これを子供らにやれ」
懐から金平糖の入った袋を投げて寄越すと、秀吉は慌てて受け取りながら困った顔をしている。
「…宜しいのですか?」
「ふっ…構わん、褒美だ」