第53章 業炎
信長様が一向一揆の制圧の為に越前へ出陣されてから、はや三日が経とうとしていた。
此度の戦には、秀吉さん、光秀さんが共に出陣し、安土の城守には三成くんと、駿府から家康が来てくれていた。
「家康、来てくれてありがとう。家康がいてくれて、すごく心強いよ」
「っ…別に大したことじゃない。信長様に頼まれたら嫌とは言えないでしょ。まぁ、あんたと結華の顔も見たかったし…ね」
ふいっと目線を逸らす家康の耳がほんのり赤く染まっているのに気付いたけれど、見て見ぬ振りをしておく。
家康は、言い方は素っ気無いけど、本当はとても優しいんだ。
辛い時、悲しい時、私はこれまで何度も家康に救われてる。
「身体の調子はどう? これ、薬、また煎じてきたから」
言いながら、薬包がたくさん入った紙袋を渡してくれる。
「ありがとうっ!最近は…少し血の巡りが良くなったのかな?月の障りの時に寝込んじゃうようなことはなくなったよ」
「そう…ならよかった。
あの人には『黙ってろ』って言われてたけど…あんたの身体のこと、すごく心配してたんだよ、信長様」
「…えっ?」
「あんたの身体の不調や子が授かりにくいことについて、自分でも医術の書物を読んだりなさってたみたい。
俺に薬を煎じるように命じられたのも、ご自分で色々と思案されてのことだったようだよ。
……信長様は朱里のこと、ほんとに大事に想っておられるね」
「っ……」
知らなかった…信長様がそこまで私の身体を気遣って下さっていたなんて……
そんなにも心配させてしまっていたなんて……
そんなにも……愛して下さっているなんて…
気が付けば、頬を温かい涙が伝っていた。
抑えようと目を瞬いてみても、次から次へと溢れてくる涙で視界がぼやけて家康の顔をまともに見れない。
「っ…ふ…うっ…信長さまに逢いたいよ…」
「朱里…」
信長様に今すぐ逢いたい
あの優しく微笑むお顔が見たい
今頃どこで、どうしていらっしゃるのだろう
お怪我などなされていないだろうか
夜はちゃんと眠れていらっしゃるだろうか
逢いたい 逢いたい
この身に羽根があったなら、今すぐ貴方のもとへ飛んで行けるのに