第50章 花惑い
「結華、すぐに終わるゆえ、もう暫くそのまま目隠しをしておれ。大丈夫だ、父はお前の傍におる」
(結華には血生臭いものは見せたくない)
結華を腕に抱きながら、刀を構え直して周りを見回すと、男達は既に、秀吉と光秀らの手によって床に転がされており、呆気なく制圧されていた。
(他愛もない…)
「御館様、結華様、お怪我はございませんか?」
秀吉がすぐさま駆け寄ってきて聞いてくる。
秀吉はそわそわと落ち着かない様子で、俺の首に腕を回してしがみついている結華の表情を窺おうと、首を伸ばしている。
「っ…結華様っ!」
「………ひでよし…??」
「あぁ!ご無事でよかった!心配致しましたぞ」
「……ごめんね。ちちうえ……ごめんなさい…」
項垂れた様子で、俺にしがみついたまま謝る結華の頭をぽんぽんと撫でてやる。
勝手に一人で城下へ下りたこと
皆に心配をかけ、家臣達をも振り回したこと
父として、城主として、厳しく叱らねばならないことは分かっている。
織田家の姫、天下人の娘として産まれ、その一挙手一投足が周りに及ぼす影響は、今後ますます大きくなるだろう。
今のまま、天真爛漫、思うがままに成長していってほしい……そう願う気持ちは強いが、時には厳しいことも言わねばならん。
だが、今この時だけは、何も言わず、何も聞かず、ただ、震える娘を強く抱き締め、傷ついたであろうその心を少しでも早く安心させてやりたかった。
「…帰るぞ、結華」