第7章 誕生日の贈り物
その夜、天主で信長様のお帰りをお待ちしていると、勢いよく襖が開いて、いつもより忙しなく信長様が入ってくる。
「お帰りなさいませ、信長様!」
「あぁ」
(あれ?何だか機嫌悪い?)
そのまま私の前を素通りしてドカッと座り、脇息にもたれて不機嫌そうに私を見る。いつもと違う冷たい視線に戸惑いを隠せない。
「あ、あのっ、どうかされましたか?」
「……貴様、今日、1人で光秀の御殿に行ったそうだな」
低く凍えるような冷たい声が天主に響く。
(え?なんでご存知なんだろう?っていうか、なんで怒ってるの?)
「わざわざ会いに行くなど、何の用だ?俺に言えぬことか?」
「っ、いえ、そういうわけでは…」
(誕生日のこと、できれば秘密にしたいけど……言うまで許して貰えなさそうだな…)
頭の中で言い訳を考えていると、突然、信長様が私の腕を引き、そのまま床に押し倒される。両手を頭の上でまとめて縫い止められて、ぐっと顔を近づけられる。乱暴な扱いに胸が騒ぐ。
「正直に言わねば……どうなるか分かっておろうな」
「っ、なぜそんなに怒ってらっしゃるんですか?……光秀さんとは信長様のお誕生日のお話をしただけですっ」
「……誕生日だと?なぜ光秀とそんな話をする必要がある?」
問い詰められて仕方なく、私は皆に誕生日の贈り物の相談をしていたことを信長様に打ち明ける。黙って私の話を聞いていた信長様は、私が話し終わると、納得したかのようにほっと息を吐く。
「……贈り物など…俺は貴様が俺の隣におればそれでよい。特別なものなどいらん」
「……もしかして、妬いてくださったんですか?私が光秀さんに会いに行ったことに」
淡い期待を抱いて、上目遣いで信長様を見上げながら問いかける。
「っ、そのような目で見るでない。嫉妬、など…この俺がする訳なかろう」
怒ったように言いながらそっぽを向いた信長様の頬は少し赤かった。