第7章 誕生日の贈り物
「っ、違いますっ。」
「……冗談だ、本気にするな。…用件を聞こう。俺は暇ではないんでな」
(完全に揶揄われてる!やっぱり苦手だな、この人…)
最初のやり取りで何だかぐったり疲れてしまい、おずおずと聞きたかった質問をする。(真面目に答えてくれるかな?)
「あのっ、もうすぐ信長様のお誕生日ですけど、光秀さんは信長様に何を贈られるんですか?」
「そうだな…俺はこの、南蛮から届いた秘薬を差し上げようかと思っているが…」
言いながら、側の棚から淡い色合いの美しいびいどろの小瓶を取り上げて、私の前に置く。置いた拍子に瓶の中味がトロンと揺れて妖しげな雰囲気を醸し出す。光秀さんが妖艶に微笑みながら、
「…これは南蛮の、いわゆる媚薬だ」
「び、媚薬??」
「朱里も子供ではないから分かるだろう?媚薬とは、男女の閨事に用いられるものだ。媚薬を用いて戯れれば、更なる快楽を得られるらしいぞ。これを使って乱れるお前を見れば、御館様はさぞお喜びになられるだろう、と思ってな」
(ね、閨事って…乱れるって…)
パクパクと口を魚のようにして、開いた口が塞がらない私を見て、光秀さんが我慢できないというように噴き出す。
「くくっ、冗談だ。お前は本当にからかい甲斐がある…これはただの風邪薬だ。俺は、信長様には、美味いと評判の酒を贈るつもりだ」
(風邪薬…本当かな?光秀さんの話は嘘か本当か分からないよっ)
疑り深い目で睨む私を、さらりと受け流し、
「お前は何を贈るか随分と悩んでいるようだが、大切なことは贈るものが何かということではないと思うぞ。御館様のお心を、よくよく考えてみることだ」
光秀さんの珍しく真面目な物言いに、明確な答えが見つからないまま、光秀さんの御殿をあとにした。