第48章 満たされぬ心
あれから数日経ち、月の障りも漸く終わり、辛かった体調も元どおり落ち着いてくると、冷静に物事を考えられるようになっていた。
『信長様に側室を持つようお薦めする』
家老達にそう言われた時は、本当に衝撃的だった。
ただ、彼らに悪意はなく、純粋に織田家と信長様のことを案じての行動だというのは、よく分かった。
小田原の父上も、何人か側室をお持ちだったし、子もおられた。
正室である母上は、身体が丈夫ではなく、子は女子の私一人、お世継ぎの男子はお産みになれなかった……私と同じだ。
でも…母上は、父上が側室を持ち、子を産ませたことに対して、何の不満も仰らなかった。
それが武家の正室の在り方なのだと…そう仰られた。
私は……母上のように強くはなれない。
信長様に、他の女人と閨を共にされるよう薦めるなんてできない。
信長様が、私以外の人と交わるなんて嫌だ。
他の人が産んだ子を抱く信長様なんて見たくない。
信長様は意外に子煩悩だ 結華にもとても優しい。
他の人に子ができても、きっと同じように可愛がられるに違いない。
嫉妬で気が狂いそうだ。
浅ましい 醜い 私の心
信長様は、『側室は持たない』といつも言ってくださっていた。
私はその言葉にずっと甘えてきたのだ。
信長様から与えられる愛をただ受け止めるだけで、自分からは何もしてあげられていない。
お世継ぎも産んであげられない。
織田家のために、信長様のために、私には、何ができるのだろう……何をすべきなのだろう……