第48章 満たされぬ心
その後、朱里の自室で、結華と囲碁で遊んでやる。
三歳になった年に囲碁を教え始め、まだまだ遊びの一環に過ぎないが、結華はなかなか覚えが良く、上達も早い。
暇さえあれば俺と囲碁をしたがる結華に、朱里はいつも申し訳なさそうにしているが、俺は秘かに、我が子との、この時間を楽しみにしているのだった。
ただ、今日は朝から城下へ出て、よく歩いたこともあって、幼い子供のこと、そろそろ疲れが出てきたようだ。
先程から、碁石を手に持ったまま、眠そうに目を擦っている。
「くくっ…結華、今日はここまでに致そう。昼寝の時間だ」
「ん…はい…ちちうえ…」
抱き上げて褥の上に運んでやると、あっという間に眠りに落ちたらしく、すうすうと可愛らしい寝息を立て始めた。
「ふっ…愛らしいな」
「信長様、今日は結華の面倒を見て下さってありがとうございました。随分と楽しかったみたいで…よかったです」
「ああ、次は…三人で出かけような」
「はいっ」
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天主へと続く廊下を歩きながらも、先程の朱里の様子が気にかかる。
顔色が悪く、目元も赤かった…泣いていたのだろうか?
朝から体調は良くないようだったが…それだけではなさそうだ。
「信長様…」
天主入り口の襖の前で、俺を待っていたのは、暗い顔をした千代だった。
「…千代、いかがした?貴様がこのような所にまで来るとは…」
「っ…ご無礼をお許し下さいっ。姫様のことで…どうしてもお伝えしたいことが……」
頭が床に付く程に平伏する千代を制して、話の続きを促す。
話を全て聞き終えて、深い溜め息を吐く。
「千代、よく知らせてくれた。礼を言う。朱里の様子に気を配っておいてくれ」
「は、はい…あの…」
「案ずるな、後は俺に任せよ。俺の妻は朱里だけだ…何があろうと必ず守る」
「信長様…」